世界のMCR7

世界のMCR7


■■願い事は翼が欲しい ハスラー■■


21初頭のMCR開発の話をすると「艦隊万能主義」が必ずからんでくる。
「恒星間戦争は宇宙艦隊同士の決戦で決着する」という考え方だ。
TDFは宇宙艦の建造にリソースをつぎ込んだため、この頃のMCRは「安かろう悪かろう」になりがちだった。
しかし、そんな時代に逆らった豪華な長距離侵攻MCRもあるのだ。

MCRの主な任務は基本的に惑星の大気圏内で、飛んだり歩いたりして戦うことだ。
空中戦ならば戦闘機よりも強く、陸戦は戦車を上回る。
もちろんMCRは宇宙空間でも充分戦える。しかし宇宙戦闘に限るなら宇宙艇の方が使い勝手が良かった。

ハスラーの先輩にあたるライトニングは大型空戦MCRだ。



ライトニング


ライトニングは最初から長距離侵攻を目的として開発されたわけじゃなくて、
大きなボディに巨大なエンジンをつけてみたら意外にハマった大型MCRだ。
生産コストは高かったが長距離移動能力は折り紙付きで
「宇宙で使えるMCRを空軍が使えば、主導権を奪い返せるかもしれない」
と期待させたのだった。

MCRの強みは活躍の場所を選ばないところだ。
開発陣の言い分はこうだ。
「宇宙だって虚無の空間じゃないんです。何があるか分からないですよ。
 想定外の事態に備えても良いんじゃないですか?」
喧嘩を売った割に「保険にどうぞ」はだいぶ弱気だが、筋は通っている。
戦場が宇宙に浮かぶ大陸や異常重力地帯になる事もあり得るし、広い宇宙には想像もつかない場所もあるだろう。
想定外の事態がどんなものか、想定できないから「想定外」なのだ。
「先制防衛」(なんじゃそりゃ)にも使えそうだし、
「まあ、一応作ってといもいいか」
と開発許可がおりた。

想定外の事態は宇宙空間の怪現象ではなく、どこにでもある普通の惑星、ラムロンで起こった。
ラムロン戦争で決戦でTDFは敵の地上部隊の想定外の抵抗に苦しめられたのだ。
ラムロン侵攻作戦を指揮したヒロコ・ナカヤ中将が惑星強襲艦を大規模に投入して、TDFはなんとか戦局を挽回できた。
惑星強襲艦とは大気圏突入させた宇宙艦をラムロン星に強引に着陸させ、そのまま基地にする乱暴な役割の軍艦だ。
ライトニングはラムロン戦争の惑星強襲艦の護衛にぴったりで、宇宙軍からの出動依頼が殺到した。
そうなると当然、新型MCRも欲しくなってくる。
ライトニングはコスト度外視で作られたので、次は常識的な予算でしっかり働けるヤツが欲しい。

低コストで長距離航行能力と戦闘力を両立させるなんて虫のいい話が簡単に実現するはずもなく、欠陥機が乱立。
そんな中、ハスラーは絶妙なバランス調整に成功し、実戦配備されたのだった。



ハスラー


ハスラーはライトニングやシュピーゲルよりも一〜二世代新しいだけあって脚部は流線型だ。
しなやかに動く脚は、これは空中機動性能を引き上げている。
その代わり、有重力化での歩行能力はあきらめた。
地上戦をするなら小惑星に限定。
その割り切りの良さがハスラーを成功させた。

ちなみにハスラーの同期にはファントムがいる。
話のついでにファントムの説明もしておこう。
その方がハスラーの能力が分かりやすいからね。



ファントム


ファントムは航続距離が短く瞬間戦闘力が高い、ハスラーと対照的な性能だ。
一対一で接近戦をしたらハスラーはファントムのビームソードで一刀両断されてしまう。
距離を取れば、ファントムの大口径ビームカノンに風穴を空けられる。
ハスラーに勝ち目はなさそうだ。

実際、ハスラーがファントムに確実に勝てるのは航続飛行距離だけだ。
しかし、兵器の優秀さを戦闘力だけで決めちゃいけない。
遠く離れた戦場にいち早く急行できるのはハスラーだ。
ファントムが到着する頃には、手遅れになっているかもしれない。
あらゆる戦場にファントムを配備すれば良いけど、高価なファントムは数を揃えらない。
肝心な時に必要な場所に居られないリスクが高いのだ。

中量級のサンダーボルトも航続距離の長さがウリだけど、ハスラーはケタが違う。
遠く離れた大陸はもちろん、近くの衛星からも急行できる。
どこからでも助けに来てくれる。どこにでも攻めに行ってくれる。
ハスラーは肝心な時に必要な場所に派遣できる可能性が高いのだ。

昔の子供たちはファントムとハスラーの玩具を戦わせて遊んだものだ。
どちらもサイズがほぼ同じだったからライバルにしやすかった。
筆者も含めて、みんなハスラーの方が強いと思いこんでいた。
タフな見た目のハスラーが体当たりでファントム(やシュピーゲル)を破壊する様を思い描いていた。
閑話休題。

ハスラーはパイロットが狭いコクピットの中で頑張れば、オプションパーツ無しで地球から月まで飛べる。
でも宇宙艇ならハスラーと同じ価格帯でもトイレとシャワーがつくし、ずっと楽に月まで行けちゃう。
アポロ計画時代ならともかく、宇宙航行専用機が快適なのは当然だ。
でも、ハスラーの強みは頑張れば何でもできる汎用性の広さなのだ。
ハスラーは装備を選ばない。
ハードポイントが多く、防御用の肩アーマーを支援用の火器に換装もできる。
手で持てる銃なら(サイズが合えば)なんでも使いこなす。
もちろんファントムやシュピーゲルの武装も簡単に搭載できる。
戦場にハスラーが到着すれば、様々なMCRの代役になるのだ。

ハスラーは宇宙船の護衛、指揮、偵察、爆撃、標的曳航、地面を離れれば、およそ考えられる任務は何でもできた。
ワープエンジン搭載型まで作られ、頑張って冥王星にも行った。
器用貧乏な印象もあるけど、ハスラーは長距離を飛んで長期間就役した。
MCR冬の時代には多数のアヒルが誕生したけど、ハスラーは大空に羽ばたいた白鳥だったのだ。



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