続々・世界のMCR

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■■羽水博士インタビュー サーベイヤー開発秘話■■




世界のMCR第3回は、知られざる駄作機ではなく、いよいよ歴史的名機として知られている「SER−32 サーベイヤー」を取り上げよう。
今回は、サーベイヤーの開発者である、羽水(うすい)キミコ博士に開発当時の話を伺った。
博士はゴゴー戦争の時には、研究所の助手と兼任して、ニードルファイターのパイロットとして前線に出ていた人物である。


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サーベイヤーは羽水博士が設計されたMCRですが、まず、サーベイヤーの開発コンセプトからお願いします。

羽水:
サーベイヤーは超電気エネルギーを使った装備の実験機として設計しました。
肩についているシールドは超電気エネルギーで発生させたものです。
また、ライフルやマシンガン等の武器も、全て超電気を使った高出力の電磁砲なんです。
だからサーベイヤーの装備は、軍が使用しているものよりも、弾の発射速度が速いんですよ。

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バルカイザーの技術が応用されているわけですね?

羽水:
そうです。バルカイザーのエネルギー源ともなっていたバルカニウム鉱石がすでに無いので、武器の威力はバルカイザーのものよりずっと劣りますが、それでも性能は当時の地球の最高レベルでした。
また、サーベイヤーにはメグリロちゃんに使っていた技術も使用しています。

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メグリロちゃんとは超電気科学研究所の開発した、自律型支援兵器の事ですね?

羽水:
そうなのかな? (しばらく間) あ、そ、その通りです。

メグリロちゃんは、ええと、その、あちこちで噂されてる、非人道的なクライオニクス技術の実験台だったとかっていうのは単なる噂ですよ。
絶対に関係ないです……。そのはずです。

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私も人体実験説は単なる噂話だと思いますよ。
とにかく、今回の主題はメグリロではありませんから。

羽水:
あ、すいません。
私はメグリロちゃんの戦いを研究所でサポートしていました。
無人機「バルカプセル」で輸送した「電磁シールド」は、その時に正式に実用化されたものなんです。

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サーベイヤーはバルカプセルを破壊する事で武装の強化をしていますが、輸送機を使わなかったのはなぜでしょうか?

羽水:
バルカプセルは使い捨てですから、たしかに、もったいないですよね。
でも、敵の真ん中に輸送機を送るのは危険すぎたんです。

ゴゴー戦争でもメグリロちゃんの戦闘をサポートする必要があったんですけど、それをバルファイターで行うには機体もパイロットも足りませんでした。

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軍事評論家がよく指摘している事ですが、バルカプセルを無線で帰還誘導させて再利用する考えはなかったのですか?

羽水:
実は、バルカプセルは何度も使える高性能無人機として、私が設計してたんです。

私、メグリロちゃんを支援するために何日も徹夜して、自動帰還システムを考えて……

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それなのに、バルカプセルはミサイルのように使われてしまった?

羽水:
いえ、博士……、天護(あまもり)の書いた設計図の方が優秀だったんです。

バルカプセルは意外に製造コストが安いんです。
行きのロケット燃料と、簡単な機体と、シンプルな誘導装置だけで済みますから。

ひどいんですよ!
博士ってば、私の設計図をチラっと見た後で、宅配便の届けにサインするみたいにサラサラと新しい図面を書いて……
しかも、そっちの方が優れてたんです。
結局、私の案はすぐに没になっちゃいました。

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開発に苦労はつきものというわけですね?

羽水:
そうですね。でも、私の考えが浅かったんです。

私も贅沢しちゃいけないと思って、帰還誘導させようと考えたんですけど、無事に戻って来られるシステムを付けても、敵に撃ち落される可能性は高いですし。
やはり「輸送用のミサイル」と割り切るべきでした。
私がやった事は自動爆破装置をつけて、未使用のカプセルが市街地に落下しないようにした事くらいです。

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自爆装置は事故を未然に防ぐ、重要な機能だと思いますよ。
バルカプセルシステムをサーベイヤーに適用した理由は何でしょうか?

羽水:
このシステムは、もともとサーベイヤーの仕様には含まれていなかったんです。

サーベイヤーは他のMCRに比べて大量のエネルギーを必要するんですが、超電気科学研究所で試験する分には全く問題無かったんです。


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サーベイヤーは研究所で試験する事を前提として作られたので、大量のエネルギーの補充には問題が無かった。

羽水:
ええ、そうです。大量と言っても、バルカイザーならば数秒で使いきってしまうエネルギー量でしたが、それでも当時のMCRとしては膨大でした。
サーベイヤーにエネルギーをフル充填させた上で発進させられる施設は、超電気科学研究所しか無かったんですよ。

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つまり、サーベイヤーは超電気科学研究所以外からは、完全な状態で出撃できなかったと。

羽水:
そうなんです。
それで、どこでも使えるようにするために、一度発進させてから、バルカプセルでエネルギーをチャージしていく事を思いついたんです。
バルカプセル自体の輸送は簡単ではありませんでしたが、それでも、サーベイヤーをフル装備させる事に比べれば、「可能である」という事だけで、実行する価値がありました。
ついでに、ロケット弾等も追加補充して、連続して大量発射ができるようにする等、様々なメリットが生まれたんです。

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仕様の追加と言えば、サーベイヤーの大型飛行ユニットも、急遽追加された装備だったそうですが?

羽水:
はい。天護が取りつけたものです。しかも私に無断で。
サーベイヤーはもともと、完全な実験機で、戦闘に出す予定は無かったため、試験用の超電気シールドはありましたが、本体の装甲は申し訳程度でした。
それを博士ったら、猛烈に出力の高いエンジンをつけて
「高機動、高火力、低装甲! 君の作った、地味〜ぃな機体をゼロ戦にしてやったぞ!」
と威張ってたんですよ。ひどいと思いません?

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とても苦労なさったんですね。
それでも、サーベイヤーは特筆すべき戦果を挙げましたね。

羽水:
ええ、幸いパイロットのかたが優秀だったものですから。
私もですね、とにかくサーベイヤーの無事を祈って、帳簿をいじって、2倍のバルカプセルを送りこんだんです。

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サーベイヤーは単独で大気圏突入ができる、現在でも珍しい機能を持ったMCRでしたね。

羽水:
はい。私なりにバルカイザーの機能の再現を狙って設計しておりましたので。
バルカイザーのような、単独での大気圏突破はさすがに不可能でしたが、とりあえず超電気冷却システムを入れていたんです。
冷却用エネルギーは、バルカプセルに依存せずにストック用の予備タンクに入れておいたため、無駄な機能だという意見も多かったんですが、ここは私も譲りませんでした。今にして思うと不思議な事ですが…… 虫が知らせたのかもしれないですね。


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電磁砲、シールド、バルカプセル、冷却装置……
さまざまな技術の蓄積があって、サーベイヤーの活躍があったわけですね。

羽水:
ええ、その通りだと思います。
最初に設計した時は、使用している装備が高性能だった分、機体デザインは、基本に忠実に、整備しやすく、扱い易く、データを採りやすいものにする事だけを考えていたんですが、それがまさか実戦に使われてるなんて思ってもみませんでした。
緊急事態に際して、今まで無関係だと思っていた様々な技術を有機的に統合していった経験は、研究者として大切にしていきたいと思っています。

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以上が羽水博士とのインタビューの内容である。
実は筆者は、博士に会うまでは、その人物像を、ゴゴー戦争で最前線で戦った戦士のイメージから、冷徹で厳格な人柄だと、失礼ながら勝手に想像していた。
しかし、羽水博士は筆者の想像よりずっと奥ゆかしく、また、人間味にあふれた一科学者だった。
もっとも、タフな面を垣間見せていたのは、やはりゴゴー戦争や、天護博士に長年師事する事により培われたものかもしれない。

インタビューはサーベイヤー自体には、大きな特徴が無かったせいか、支援システムの話に終始してしまった。
しかし、サーベイヤーは、もともと規格外の装備を使うために設計され、それを更に規格外に改造した、まさに暴れ馬だった。
それらを奇跡的に有効に機能させていたものは、パイロットやサポートに携わった全て人間の力だったと書くのは、いささか陳腐な表現であろうか。




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