対談:第二次ローラン戦争
対談:第二次ローラン戦争
キミコ:
皆さんこんにちは。超電気科学研究所の羽水(うすい)キミコです。
今回は第二次ローラン戦争について、様々な話を天護(あまもり)博士にうかがいます。
博士、よろしくお願いします。
博士:
うむ、よろしく。
ああ、それとワシはサーベイヤーの話はしないからな。
そっちは君が誰かに自慢すればいいだろう。
キミコ:
私は自慢なんてしませんし、サーベイヤーについてのインタビューはとっくの昔に済んでます。
では、まず博士が開発した「SER-28 ボストーク」の話から行きましょう。
博士:
ボストークはTDF設立前の各国陸軍の仕様要求書に沿ってワシが開発した機体の一つだ。
キミコ:
当時の仕様要求は
・射撃と格闘を行えること。
・高速移動能力を有すること。
・高い跳躍力を有すること。
などしたね。
この仕様要求は80年代初頭から出ていましたが、全てを満たす機体はほとんどありませんでした。
それにしても、博士はめったに他人の要望に答えたりしないのに、陸戦型MCRの開発は熱心でしたね。
どうしてですか?
博士:
まあ、ちょっとした座興だよ。
陸戦型MCRの開発はどこも苦戦していたからな。
そこでだ。
あえて、皆が苦戦する規格の機体を、あざやかに作った方が、ワシの天才レベルが分かりやすいだろう。
キミコ:
それは天才というより、ひねくれ者ですよ。
博士:
ワシにとっては俳句を読むようなもんだぞ。
風流人と言って欲しいな。
君が設計した、軍の仕様に沿ってないのに堅苦しいサーベイヤーとは違うんだよ。
キミコ:
サーベイヤーの話はしないって言ったの、博士ですよ。
博士:
そうだった。では、サラセンの話をしようか。
キミコ:
それって、イギリス陸軍が開発したMCRで、博士は関係ないはずでは。
博士:
サラセンは陸戦型MCRの最高傑作のふれこみで登場した機体だ。
開発にワシは関わってないが、いい線をいっていたよ。
キミコ:
博士が他人の作ったものを褒めるなんて珍しいですね。
博士:
その優秀なサラセンは、第二次ローラン戦争でワシのボストークにボロ負けしてな。
サラセンの名声は急降下。
TDFは後継機のサラディンの設計をずっと続けて、開発スケジュールがメチャクチャになったらしいぞ。
いやはや、痛快、痛快!
キミコ:
ちっともおかしくありません。
はた迷惑ですよ。
博士は私のサーベイヤーも、民間用に開発したオオスミも勝手に戦闘用に改造するし、いろいろ困ったんですけど。
博士:
結果的にそれでネオローラン党に勝ったんだからいいじゃないか。
実を言うと、あのローラン戦争が始まる前にジョイス女史が、ワシに会いに来てな。
「サラセン以上のMCRはワシにも作れまい」と言うから、ボストークの設計はちょっと本気を出してしまった。
あれだけ小さくても強いんだから、勝敗は明らかだろう?
キミコ:
ジョイスさんって、アドベンティアの……
ローラン党対策もしていたジョイスさんですか?
博士:
そう。そのジョイス女史だ。
キミコ:
はあ……
私が知らないところで、そんな個人的な勝負をしてたんですね。
とにかく、博士は何でも勝手にやるのが迷惑です。
TDFの仲矢さんにも迷惑をかてけたんじゃないですか?
博士:
ワシには覚えがないな。
彼女はワシが何を言ってもやっても目を輝かせて喜ぶから、むしろ調子が狂った。
キミコ:
そうですか。
博士が仲矢さんに無理難題を押しつけていなければいいんです。
博士:
うーん。そういえば、彼女は作戦開始前に
「補給用のバルカプセルが足りない」
と、涙目で慌てていたな。
キミコ:
私、サーベイヤーをサポートするために
あちこちの書類を書き換えて、
「バルカプセルはサーベイヤー用に大量投入する」
って事にしてたんです。
博士:
君が仲矢君への割り当てを、かっさらったのか。
迷惑をかけていたのはキミコ君じゃないか。
彼女は限られた物資で頑張っていたよ。バルカプセルの小改造を提案したりな。
ネオローラン党が使った、主力を囮にした大規模な陽動作戦は
「いつか自分も応用する」
と言っていた。
実にタフな女性だよ。
しかし、ネオローラン党の優れた作戦は評価しても、彼らの技術は最期まで認めていなかったな。
キミコ:
その代表がホログラム兵器ですね?
博士:
あれはアドリー星の技術で作られたものだ。
19世紀にアドベンタム号がアドリーの兵器と戦っているし、アドリーの技術は大昔から地球に広く浅く浸透していたんだがな。
キミコ:
アドリーといえば、現在アルファ・タリオン星系のシグ・フィルドニアで地球とアドリーの戦争が続いてますよね。
博士:
話がどんどん脱線していくな。
今回はワシの話だけできると思ったんだが。
あの戦争はそろそろ終わるんじゃないかな。
WOLFLAME作戦でTDFのコルベットが、ホログラム兵器装備のアドリー軍司令船を撃破したらしいぞ。
キミコ:
え!? それが本当なら、軍事機密じゃないですか?
今、言っちゃっていいんですか?
博士:
どうだかな。ワシ自身は秘密主義だが、他人の秘密には興味がないんだ。
キミコ:
だから最近、超電気科学研究所はTDFから時々苦情を言われるんです。
博士:
今のTDFはワシらに高望みしすぎなんだよ。
もし火の粉がふりかかるような事があったら、相手が誰でも理由が何でも、蹴散らして解決したまえ。
キミコ:
鎮火するって選択肢もあると思うんですが。
やっぱり、昔も今も超電気科学研究所は武闘派なんですね。
博士:
なんと言っても、銀河系最強の研究所だからな。
それにワシは常に勝つから、いいんだよ。
ん、どうした?
突然考えこんで。
キミコ:
博士、ボストークはジョイスさんの一言がきっかけで作られたんですよね。
博士:
うむ。賭けをしたわけじゃないが、ワシの勝ちだ。
キミコ:
そもそも、ジョイスさんの方は勝つ気があったんでしょうか。
勝敗よりも、博士がネオローラン党対策に協力する事を望んでたんじゃないですか。
あの頃は、軍も私達もローラン戦争がまた起きるなんて思ってなかったし……
彼女は万が一の事態に備えて、少しでも戦力を整えようとしたんじゃないかと。
博士:
うーん……
そう言われると、思い当たるフシがある。
キミコ:
博士は常勝なんて威張ってますけど。
実は、あちこちで一本取られてるんじゃないですか?
気がついてないだけで。
博士:
うむ?
ふむ……
ワシは決して挑発に乗ったわけでは……
いや、乗ったのか……
キミコ:
博士が自分の過去を真面目にふりかえってます。
珍しい。というより私にとっては歴史的イベントです。
博士は長考に入りました。
「長考に好手なし」という格言もあるので心配ですが、そろそろ時間です。
これで対談を終了いたします。
これからも、超電気科学研究所をよろしくお願いいたします。