STEEL STRIDERの時代

STEEL STRIDERの時代




■■無法者の時代■■
 21世紀半ばに入ると、銀河文明圏は戦争の代わりに平和的外交を頻繁に行うようになった(サタゼウスの時代参照)。

 様々な恒星系では軍の予算が削減され、軍備の縮小がなされた。TDF(地球防衛軍)も例外ではない。
 むしろ、地球圏周辺の恒星系にとって一番の脅威であるTDFが軍縮を行ったことが、緊張を緩和させたのである。

 恒星間戦争の危険が無くなったことで、宇宙植民者の数は劇的に増加し、惑星間の貿易も盛んになり、貨物船の往来も激しくなった。
 植民者の増加は、同時に「植民に失敗する者」の増加を意味していた。
 恒星間戦争が頻繁に行われた混乱期よりも、植民の成功率は上がってはいたが、失敗するケースも多発した。
 植民に失敗した者たちは、他に生き延びる手段を選ばねばならない。
 彼らは徒党を組んで宇宙海賊となり貨物船を襲うようになった。
 宇宙海賊の脅威は植民の成功を妨げる。宇宙海賊の被害にあった植民者たちが、生きるために海賊となってしまうのである。

 植民星、貨物船団、宇宙海賊の連鎖的、かつ爆発的な増加は、各星系の政府の予測をはるかに超えていた。

 無法者は宇宙海賊だけではない。
 「治安維持」の名のもとに、植民星の利益を奪い取る違法な軍事組織も増加していた。
 代表例として、タリア星の「ダークヘルカンパニー」、ミル星の「ペガサス傭兵団」らが挙げられるが、全てを挙げると一冊の辞典になるほどである(実際に辞典も発行されているが、内容は不完全である)。

 違法な軍事組織の一つに「アルゴ運送」があるが、こちらは後述する。



ダークヘルカンパニーがタリア星で使用していた陸戦兵器
作業機械「ダイゴV6」に武装を施したもの


■■小型MCR■■
 軍縮は安価な兵器の量産にも繋がった。
 様々な恒星系で、多数の小型MCR(有人戦闘ロボット)が開発された事もこの時代の特徴である。
 小型MCRのサイズは全高5〜6m。標準型の約半分である。

 小型MCRは20世紀末から開発、実戦投入されており、戦果も上げていたが、決して脚光を浴びる存在ではなかった。

 小型MCRはコストパフォーマンスは高かったが、主力とは言えない兵器を支給された部隊は満足しなかった。
 TDFからは 「これは豆戦車の再来だ!」  という怒りの声もあがった。  ちなみに豆戦車とは20世紀半ばの世界軍縮時代に各国で大量生産された、戦車の代用品である。

 不満をつのらせていたのはTDFだけではない。
 地球と同盟関係にある、ラムロン軍も軍縮にいらだっていた。
 ラムロン軍でも小型MCRが大量生産されており、コレロス市で起きたクーデターも軍が抱えていた不満が噴出したと言える。



ラムロン軍の「クティカ」
地球製MCR「サラディン」の影響が見られるがサイズは小さい


■■アルゴ運送■■
 「アルゴ運送」は21世紀初頭から半ばにかけて存在したと言われる軍事組織である。
 この組織の情報は非常に少なく、不明な点が多い。

 運送会社に偽装して、大量の兵器を密輸するだけでなく、自らも戦闘行為を行っていたようだ。
 幅広い恒星系に大量の物資を輸送する運送会社は、秘密裏に軍事活動を行うための隠れ蓑として有効だったことは確かである。

 基本的に通常の運送業も行っていたことから、戦闘を行っていたのは組織の一部ではないかと思われる。
 また、困窮している惑星に対して地球人、異星人の区別なく、食料、医薬品、苗や農耕機器などを誤配送していたらしい。

 他の非合法軍事組織と異なるのは物品の代金を取ることはなく、あくまで「誤配送」と称した無償行為であった点である。
 アルゴ運送による物資援助は植民星が自給自足できるよう考慮されていたという証言もあれば、あくまで一時的な援助にすぎず、根本的な解決に至らなかったといる証言もある。

 各星系の政府から独立した軍事組織として有名なものに「超電気科学研究所」がある。
 同研究所は地球連邦の管理下に置かれたこともあったが、現在では独立した軍事活動が公認されており、アルゴ運送とは性質が異なる。
 アルゴ運送と超電気科学研究所は相互援助する関係にあったという説もある。
 超電気科学研究所は20世紀半ばにフラバル財団の援助を受けて設立したため、アルゴ運送もフラバル財団が設立したという者もいるが、この論理は飛躍しすぎであろう。

 様々な説があるが、その行動の是非はともかく、アルゴ運送は非合法軍事組織という意味において無法者である。

 しかし超電気科学研究所も、かつて地球連邦の反逆者という無法者の烙印を押された事があるように、現時点ではアルゴ運送の評価を定めることはできない。
 そもそも、謎に包まれている組織について、歴史が評価を定める事ができるかどうか、はなはだ疑問である。



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