コスモ心理研究所-0302-

■■実現傾向でパワーアップ!■■


ここ子
博士、博士〜! TVは消しました。
ロジャースはなんて言ってたんですか?

トーバー
私も大いに興味があります。
ここ子さんでも性格を改善できるなんて、とうてい言える事ではありませんからね。

博士
ロジャースは人間が建設的な方向に成長しようとする傾向を「実現傾向」と呼んでいる。
そして、この実現傾向を人間は誰でも持っていると考えたんじゃよ。

ここ子
本当ですか!? なんかすっごく明るくて素敵な考えですね!

トーバー
ほほーう。つまりロジャースはこう言っているわけですな?
「バカは死ななくても治る」

ここ子
バカはあんただっ!!
さっきから嫌味ばっかり言って、何なの?!

トーバー
いえ。お言葉ですが、それは現実的な考えとは思えません。
世の中には意地の悪い人や、利己主義者、無気力で暗い人も大勢いるじゃないですか。
そんな人でも実現傾向があるなんて、とても信じられませんな。

ねえ、ここ子さん。

ここ子
うーん。そう言われると…… 自信なくなってくるなあ……
みんなが実現傾向を持ってたら、世の中もっと住みやすいよねえ……

ロジャースは、そこんとこをどう考えているんですか?

博士
うむ。ロジャースはな、実現傾向は誰でも潜在的に持っているんじゃが、
それはなかなか発揮することができないと考えているんじゃ。

トーバー
潜在的には持っている。
しかし、多くの人は潜在したままという事なんですね。

博士
残念ながらそうなんじゃよ。
人間は生きていると、いろいろなトラウマや挫折。環境的な問題を経験する。
それらが実現傾向を歪めてしまうんじゃよ。

ここ子
そっかー。
やっぱり他人に裏切られたりすると、人を信じられなくなったりするもんね。

トーバー
失敗を繰り返す事で、自分が信じられなくなる人もいますしね。

博士
人間は誰でも、そのような自分なりの歪んだこだわりを持っている。
それが健全な成長をさまたげるんじゃ。
しかし、歪んだこだわりは自分自身では気づきにくいものなんじゃよ。

ここ子
歪んだこだわりをずっと持ってると、性格にも影響しちゃいそうですね。

トーバー
それはありえますね。
ロジャースは性格についてはどう考えているんですか?

博士
ロジャースは「自己概念」という性格論を重んじているんじゃ。

ここ子
自己概念?

トーバー
自分が自分自身に対して、どんなイメージを持っているかという事ですよ。

ここ子
そうなの?
それじゃ、あたしの自己概念は、いつも明るく楽しい人だよ!

博士
たしかに、ここ子君は明るくて楽しいと、研究所のお客さんからも評判じゃよ。

ここ子
わあ、嬉しい!
あたしがそう思ってるだけじゃなくて、周りもそう思ってくれてるんですね。

博士
うん。これは自己概念と事実や周囲の認識が一致していると考えられるわけだ。
これは本人にとって安定した状態と言える。

ここ子
はい。安定してます。
この状態ならあたしの実現傾向も発揮できそうな気がします。

トーバー
待って下さい。
事実を明らかにしたいんですが、本当にここ子さんは「いつも」明るいのですか?
私から見ると、だいぶ感情のムラが激しい性格に思えるのですが。

ここ子
何よ! あんたのそういう物の見方って、本当に腹が立つんだよね!
いつか廃品回収のトラックに運ばれて人生を振りかえる日が来るよ!

トーバー
実に結構ですな。
ドナドナでも歌いながら、わびさびのある余生を楽しませて頂きますよ。

それはともかく、今のここ子さんは決して明るくないではありませんか?

ここ子
それはっっっ! それは、あんたが悪いんだよ!
あたしは、本当は明るい人なんだから!

トーバー
怒鳴るとどんどん明るさゲージが低下しますよ。

ここ子
うるさい!
あたしが考えてた、自分のイメージがどんどん壊れていくじゃないのよ!

トーバー
今のここ子さんは、自己概念と事実がずれてしまっているわけですね?

博士
ここ子君、今はどんな気持ちかね?

ここ子
ええ。何だかとっても気分が悪いです。
ああもう、何で自分らしくいられなくなっちゃうんだろう……
あたしは明るい性格のはずなのに。
落ちこむわぁ……
あたしに実現傾向があるなんて、もう信じられないよ。

博士
うん。ロジャースは人が悩んだり、生きていきづらい状況におちいるのは、
自己概念と事実が離れてしまう事が原因だと言っているんじゃ。

トーバー
うぬぼれの強い人が、周りから評価されない事で、辛い思いをするのは分かります。
それはまさに歪んだこだわりですからね。

ここ子
あたしがうぬぼれ屋だって言うわけ? ますます落ちこんじゃう。

あ〜あ。
自分に自信が無いのに、周りから誉められる人もいるけど
そういう人はあたしの逆って事かな?
あたしは、そんな人たちが羨ましいけどなあ。

トーバー
ふむ。はたしてそうでしょうか?
博士、周囲に評価されているのに、本人に自信が無さすぎる場合もありますが、
この場合は自己概念と事実が離れていても大丈夫なのですか?

博士
いや、良いことではないのう。
「自分には能力が無いのに、周りの期待がプレッシャーになって、辛くてしかたが無い」
と思う人も大勢いるよ。

こういう場合、自分は評価されるに値しないという、歪んだこだわりが問題なんじゃ。

トーバー
自信があり過ぎるのも、なさすぎるのも、本人と周囲の評価のギャップが生まれるもとになるのですね。

博士
そして、そういう歪んだこだわりに振り回されているうちは、実現傾向は生まれないものなんじゃ。

トーバー
たしかに「誰も自分の事を分かってくれない」と言う人、「愚痴っぽい人」からは、前向きな意思は伝わってきませんね。

ここ子
二人とも盛り上がっていて、あたしの事を忘れてるんでしょ?
あたしも落ちこみっぱなしで、愚痴を言いたくてたまらない気分なんですけど……

博士〜! あたしって本当は明るくないんですか? 愛は死にますか? 山は死にますか?

博士
ここ子君は、いつも自分が明るくないと思っているのかね?

ここ子
いえ、いつもってわけじゃ……
どちらかと言うと、明るい事が多いと思います。
時々怒ったり、くよくよしたりするだけで。

博士
たまに怒ったり、くよくよしたりするけど、
いつもは明るいんじゃね?

ここ子
そうです。そうなんです!
落ちこむ時もあるけど、基本は明るいんです。

いつも明るくなきゃいけないって事にこだわってて、そうでない時の自分を受け入れられなかったんです。
本当にトーバーの言う通り、あたしって気分屋なんだよね。

博士
うんうん。ここ子君の自己概念はさっきと比べてだいぶ広がったようじゃね。

ここ子
はい! ありのままの自分に、少しだけ気づけたような気がします。
やっぱり、あたしでも実現傾向が発揮できるかも!

博士
それは良いことに気づいたね。
本人が自分の力で「ありのままの自分に気づくこと」。
これがカウンセリングでは重要なんじゃ。

トーバー
「激走戦隊カーレンジャー」の歌に「自分にもある、弱さを知れば本当のヒーロー♪」
という歌詞がありますが、それは自分への気づきと実現傾向の事を指していたわけですね?

博士
うむ! それこそがカウンセリングが目指しているものなんじゃよ。
別にヒーローを目指さんでもいいがな。

トーバー
人生相談では問題の解決が目的とされていますが、
カウンセリングは必ずしもそうではないんですね?

博士
そうなんじゃ。TVやラジオの人生相談は、回答者が問題の解決策を積極的に指示する。

トーバー
回答者が相談者に代わって、問題の解決策を考えるのが人生相談ですからな。

博士
しかし、カウンセリングは違うんじゃよ。

ここ子
ええ?
問題を解決してくれないんですか?
じゃあ、何をするんですか?

博士
カウンセリングの目的は、
「相談者が自分の力で問題を解決できるように、カウンセラーが援助する事」なんじゃ。

ここ子
えーと…… それじゃ、問題を解決するのは、カウンセラーじゃなくて相談者ってことですか?

博士
そうなんじゃよ。

問題を解決するためのアドバイスを貰うためにカウンセリングに来る人は多い。
だが、問題は解決しても解決しても、次々と産まれるものじゃ。

ここ子
それをいちいち解決してもらえるなら楽だけど、他人に頼りきるようになっちゃうよね。

トーバー
そもそも、どんな問題でも解決できるアドバイスを与える事は不可能でしょう。

博士
そう。問題を解決できるのは、相談者だけなんじゃ。
そして、相談者の問題解決能力が高まれば、新しい問題がおきても対処できるようになる。

カウンセラーは相談者が成長する手助けをするパートナーなんじゃ。

カウンセリングはケースバイケースだから、直接的な解決策を指示する事もある。
しかし、基本はあくまで「相談者の問題解決能力を高める」事にあるんじゃよ。
特にロジャースの来談者中心療法は、この点をとても重視しているんじゃ。

ここ子
病気になった時に、薬を飲まずに食生活を変えたりして、体質を改善して直す人がいますよね?
カウンセリングってそれと同じようなものかな?

トーバー
体質改善には時間がかかりますが、一度体質を改善した人は、その後他の病気に対する抵抗力も増しますね。

博士
うん。たしかにカウンセリングは食事療法や漢方薬に近いと言えるじゃろうな。
カウンセリングにおける体質改善とは、ありのままの自分に気づく事で「実現傾向」を発揮できるようにする事なんじゃよ。

ここ子
な〜るほど。少しだけ謎が解けたような気がします。
でも、どうしたら歪んだこだわりが抜けて、ありのままの自分に気づけるようになるんだろう。

トーバー
「あなたのこだわりは歪んでいる! それじゃダメだ! 反省しろ!」と指導すれば良いのでは?

ここ子
それはお説教で、カウンセリングじゃないよ。たぶん。
あたし、そんな事言われても納得しないもん。
っていうか、意地でも納得してやらない。

トーバー
そういえば、人生相談やお説教に何が欠けているのかという謎も残ってましたね。

博士
それは次回に話すとしようか。

トーバー
ふーむ。
しかし、人生相談よりも「ダイコンは冷え性に効く」等の自然治癒のコーナーの方が、カウンセリングに近かったわけですなあ。

ここ子
それは違う!



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