同人ゲーム製作の心理学 第15回

■■信頼感とは 後編■■

信頼感について、続きです。
前回、信頼感について考えるとき、相手の気持ちを想像して迷走する話をしました。

信頼について考えるときは、相手の事は抜きにして、自分の気持ちだけを見つめて決断する事が肝心です。
これは才能論と同じです。
「私は奴を信頼する事に決める」か「私は奴を信頼しない事に決める」かどっちかです。
他人に責任を負わせず、自分で判断した事ならば、どちら選んでも自分自身に納得がいく判断です。

自分の気が変わる事もあるでしょう。その時はまた、決めなおせば良いんです。
相手が自分の道を決めた事にしないで下さい。それはとても無責任なことです。

また「自分が誰かを信頼しない事に決める」権利がある以上、「その誰かも自分を信頼しないと決める」権利があります。
そうでなければ不公平ですね。

人間は善人の成分だけで出来ているわけでは無いので、信頼していない人、嫌いな人が何人いたって悪い事ではありません。
ただし、信頼していない人が多いという事は、リスクが大きい人生を歩むという事を自覚した上で気持ちを決めた方が良いでしょう。

相手を信頼するという事は、気持ち的にノーガードという事です。
「カラテカ」で言うと、構えをとっていない状態なので、相手のパンチ一発でGAMEOVERになります。

常に構えをとっていれば、とりあえずGAMEOVERは防げます。
そんなわけで、いつも気持ち的に構えの姿勢をとっている人がいますが、現実はカラテカほどシビアではありません。

シビアではない現実で、構えポーズをとりつつけると、どうなるでしょうか?
「構え」とは、防御姿勢であると共に、他人に拳をいつでも叩き込める態勢です。
これは他人から見たら相当おっかないポーズです。
そういう人は危険人物と見なされて、信頼感を得る機会はぐっと減ってしまいます。
不利益を受けないための構えが、実は大きな不利益を生み出している可能性は非常に高いんです。

「人を見たら泥棒と思え」
ということわざがあります。
これを常に実践していたら、値段をつけられないほど大きな財産が失われる事でしょう。

現実はカラテカほどではないとはいえ、少しはシビアなので、ノーガード状態でパンチをくらう事があります。
僕は「渡る世間に鬼は無い」と思っているので、過去に大パンチ(というより昇龍拳)を何度もくらいました。
しかし、ありがたい事に、僕にはそんな時に支えてくれる友人、力をくれる友人が沢山いました。
支えてくれるのは皆、僕がいつもノーガードで接していた人達でした。

また、自分が信頼を寄せている相手から、一方的に絶交(とか絶縁)を言い渡される事もあります。
それは致命的な事件です。
ここでガードするか、それでもノーガードでいるかを決めなければなりません。
自分も相手を信頼しない事にすれば、いつか相手が「ごめん」と言った時に、「そんなの信用できるか!」という事になり、事態は好転しません。
でも、自分が信頼感を持ち続けていれば、相手が「ごめん」と言った時に、喜んで迎え入れる事ができます。

子供は感情の切り替えが早いので「お前なんか絶交だ!」と言った次の日には、何も無かったかのように公園で遊んでいます。
私達は、いつの間に疑う事を覚えたのか。相手を信頼しない事で、自分の身を守る悲しい処世術を身につけたのか。
そう考えると、能天気な子供時代が少し懐かしくなります。
まあ、子供は同人ゲームを作ったりできないし、玩具も親にねだらないと買えないので、あの頃に戻りたいとは思いませんが、あの呑気さだけは手放したくなかったなあと思います。

話が矛盾するようですが、僕はどんな時でも、誰に対しても信頼する事を薦めてはいません。
時には疑う事も重要です。

ただし、「疑う気持ち」をうまく使えるという事は、「信頼感を持つ」という事がしっかりできた上で、初めてできるんです。
信頼感を学ばなかった人は、「信頼できる」「信頼できない」という選択肢がありません。
「信頼できない」一択です。それは、何も考えていない事と同じです。

やみくもに疑う事は簡単ですが、「上手に疑う」という事は、これまた、もの凄く難しいんです。
下手な疑いは、相手をより憎み、自分を傷つけるために使います。
「上手な疑い」は、自分を守る事はもちろんですが、疑いをはらしたり、許したりして、相手を守るためにも使います。

自分や他人が行う「心理ゲーム」を避けるためには、信頼感と、疑いをうまく使いこなす事が必要です。

信頼や疑いに限らず、どんな事でも、上手くなるためには、何度も失敗を繰り返す事が必要不可欠です。
何度も失敗をして下さい。
どんどん痛い目をみて下さい。

失敗した時は誰でも落ち込むものですが、
後で「経験点獲得!」と思えるようになれば、何でも上手くなっていくものです。

失敗を続け、良き信頼感と、良き疑いを持てる事を願います。


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