同人ゲーム製作の心理学 第14回
■■信頼感とは 前編■■
複数の人数でゲームを作っていると、信頼感が必要になってきます。
たとえ、メールでのそっけないやりとりでも、信頼感抜きでは、一緒にゲームを作る事はできないでしょう。
よく「失敗を一度でもすると信頼を失う」と言われます。
しかし、本当にそうでしょうか?
僕は
「一度や二度の失敗で、誰かの信頼を失った場合、実は最初から信頼感など無かったのだ」
と思っています。
きつい事をさらっと書きました。ショックを受けた方々、すいません。
しかし、本来、信頼感があれば、何度失敗しても、やすやすと崩れないものです。
なかなか崩れないから「信頼」というのでしょう。
一度の失敗で信頼を失うのは、感情を入れる余地の無い「ビジネスライクな関係」です。
ようは、信頼感を保てている間は、多少の事では大した問題にならないのです。
さて、問題は信頼感が無くなる時です。
本題に入る前に、言葉を整理します。
今まで「信頼感」という言葉を使ってきました。「信頼関係」ではありません。
私達は信頼感という言葉の代わりに「信頼関係」という言葉をよく使いますが、
この二つの言葉は、大きな違いがあるんです。
「信頼」は個人が持つ心理です。
「関係」とは、二人以上の人間の関わりの事です。
「信頼関係」という言葉は、「関係」という事実と、「信頼」という心理状態がごちゃまぜになっています。
例えば、AさんとBさんが笑顔で話をしていれば、それは事実です。
また、大声で怒鳴りあっていれば、それも事実です。
しかし、仲良く見えても、喧嘩をしているように見えても、他人には二人の気持ちがどうなのかは分かりません。
「そんなの見てりゃ分かるよ」という事もよくありますが、分かっているように思えているだけかもしれません。
「信頼関係」という言葉は、具体的なように見えて、実態のつかめない表現なんです。
それに対し「信頼感」とは、今の自分だけが感じている気持ちなのでシンプルです。
自分が信頼しているなら、それが信頼感の全てなんです。
相手がどう思っているのかは関係ありません。
でも、人間には
「俺と奴との信頼関係が崩れた。それははっきりしている!」
と思う事があります。
実態がつかめない曖昧な事なのに、なぜか「はっきりしている」という表現を使ってしまいます。
多くの心理学では、このような言い方を「自分の気持ちから目を背けている」と考えています。
では、目を背けない表現とはどんな言い方でしょうか?
試しに言い方を変えましょう。
「私」を主語にして、「信頼感」という言葉で表現してみるんです。
「私は奴に対する信頼感を捨てた。それははっきりしている!」
たしかにそれは、はっきりしている事実と言えます。
でも、これは心の中だけでも言いづらい表現です。
「互いの信頼関係が崩れた」の方が「私は信頼感を捨てた」よりも、責任をあいまいにできる、マイルドな表現です。
だから、私達は「信頼関係が崩れた」という言葉にすり替えてしまうんです。
何より困った事は「私は相手が自分の事をどう思っているのか分かる」と勘違いする事です。
テレパシーの持ち主じゃないのに、他人の気持ちが分かるわけありません。
心理学用語に「反動形勢」という概念があります。
これは、本当は「自分が他人を嫌っている」のに、その気持ちを認められず、
「他人が自分を嫌っている」と無意識に思ってしまう事です。
信頼感にもこれは非常によく表れます。
「俺は奴を信頼していない」と思うと、自分が器の小さい人間になった気がします。
だから、「奴が俺を信頼していない」と思う事で、自分の気持ちを守るわけです。
そうなると、相手の表情もしぐさも全て、自分に対する敵対行為に思えてきます。
「相手のしぐさを見ていれば、考えている事はだいたい分かるよ」と言う人もいます。
たしかに訓練と経験を積めば、ある程度は分かります。
が、これが分かるのは、自分が相手に特別な感情を抱いていない場合だけです。
例えば、その相手が片思い中の相手だったら、冷静に仕草を見て考えが分かるでしょうか?
同じように、信頼感を絶賛失い中の相手に対しても、冷静な判断ができるでしょうか?
そういう場合、普段は気にしていなかったのに、「あ、あいつは今、自分をにらんだ。それは事実だ」と思ったりします。
本当は自分の後ろにある時計を見ていたかもしれないのに。
何気ないメールの一言が、自分に対する皮肉のように思えてくる事もあるでしょう。
そして、自分の気持ちでは無く、「相手は自分を信頼しているのか?」という事に集中してしまいます。
この調子で迷推理を展開していくうちに、実際の関係もどんどん悪化していきます。
早く迷探偵を止めて、本当の自分に戻った方がいいですね。
人間は一人で夜道を歩くと、柳の木が幽霊に見えてしまうような生き物です。
自分の気持ちが不安定な時は、相手の気持ちを見抜く力は大きく衰え、怖い考えでいっぱいになります。
自分の心は自分に嘘をつき、目や耳をあざむきます。
ようするに心理学は「人間の心は間違いやすい」事を研究している学問なんです。
この続きは後編で。
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