同人ゲーム製作の心理学 第2回

■■創造力は不幸力■■


人間、不幸な目にはできるだけ会いたく無いものです。
「1000円落とすよりは、拾った方が良い。できれば二千円札拾いたい」
くらいに思っています。

転んだって記憶力が上るわけで無し、失恋したって足が伸びるわけで無し。
不幸になって損する事はあっても、得する事なんてありません。

ところが、世の中には、不幸な目に会う度、レベルアップをしてしまう人達がいるんです。
僕がさらっと挙げられるのは「クリエイター」と「カウンセラー」です。

カウンセラーは、自分が不幸な目にあった経験を活かせるのは、何となく分かって貰えると思います。
分からなくても大丈夫! このコラムはカウンセラーは関係ありませんので。

関係あるのは「クリエイター」の方ですね。
クリエイターと言うくくりは、さすがに大雑把すぎるので、ゲーム、小説、漫画の製作者あたりを中心に話を進めましょう。

小説家や漫画家が自分の不幸を活用できそうな事は、カウンセラーというマイナーな職業よりも分かりやすいと思います。
悲しい気持ちを知らなければ、悲しい場面は描けません。
また、悲しい気持ちを知らなければ、嬉しい感覚も鈍ります。喜びの場面も描けなくなってしまうという事です。

ついでなので、ちょっと脱線しますが、「悲しみの必要性」について書いちゃいましょう。
「悲しみの無い世界に行きたい」という願いは誰もが持っているはずです。
僕も「一生悲しい思いをしたくねえなあ」と思いながら生きてます。

ところが、人間の感覚というものは相対的なものですから、常に何かと比べています。
悲しい気持ちが無くなると、嬉しい気持ちも無くなってしまいます。
嬉しさは、悲しさと比較して、初めて湧いてくる感情だからです。
何も無いフラットな人生を送るという事は、ゲームを無敵モードで一生遊び続けるようなもんです。

もちろん、そういう生き方を選択する事は悪い事でも、否定すべき事でもありません。
が、残念ながら作家さんは別です。なぜなら感情を持たない人が書いた物語を読みたい人はいないからです。

というわけで、ノベルゲームのシナリオを書いている人は、自分が不幸な目にあったら、悲しみと喜びのネタが増えたと思って下さい。
「いや! 俺が書きたいのは、倒れても立ち上がる熱血物語じゃねえ! 俺はまったりした日常を書きてえんだ!」
と、熱く叫ぶ人もいるかもしれません。
でも、まったり系のドラマも、「笑ったらいいのか、泣いたらいいのか」という微妙な感情がスパイスになるので、実は鋭い感受性が必要だったりします。

では、ノベルゲームの絵を書いている人はどうなのか?
悲しい気持ちを味わうと、キャラの表情の描き分けが上手くなります。
表情の描き分けが上手い絵の方が、技術が巧みな絵よりも、魅力的に見えます。

「でも、キャラの彩色だけする人は? 背景の絵師さんは? メカ専門の人は?
 そもそもゲームって、ノベルやRPGのように物語性のあるもんだけじゃないじゃん!
 パズル、STG、SLG、レース、そういうジャンルはどうなのよ!?」

みんなまとめて大丈夫! 安心して不幸になって下さい(変な日本語だ)。
それは、不幸な体験は「承認欲求を強化する」からです。

前章で書きましたが、承認欲求は創造力の原動力となります。
それは、創造力が必要な全てのジャンルで適用できるんです。

承認欲求が満たされなくなると、「不幸力」が高まります。

不幸力が高くなれば、創造力が研ぎ澄まされます。
不幸力が低くなると、鈍ります。

面白かった漫画が、人気が出た途端につまらなくなっていく過程を読者として経験した人は多いでしょう。
おそらく人気漫画家になる事が夢だった人は、そこで幸せになってしまい、創造力が鈍ったんじゃないかと思います。
ここで重要なのは人気が出ているにも関わらず、ずっと面白い漫画を描く事ができる人です。
そういう漫画家は人気を目的としていない。
そのため、人気が出ても「俺はまだ本当に伝えたい事が描けてない!」等、様々な葛藤があるのではないでしょうか。
だから面白さが維持できていると思います。

私達は、幸せで鈍いクリエイターを目指すか、不幸で鋭いクリエイターを目指すか、どちらかを選ぶ事ができます。
前者を選んでも、不幸が容赦なく降りかかるかもしれないし、後者を選んでも都合良く不幸な目に会えるかどうかは分からないですが。

また、自分が不幸だと思ったら「創造力ポイントがアップ!」と思えば、少しは気がまぎれるかもしれません。
僕ですか? そんな気休めで、気がまぎれる訳ないじゃないですか! 本当に不幸な時はそんな余裕ありませんよ。

さんざん、創作には不幸が必要と書いておいて手のひらを返すようですが、人間は不幸のまっただ中にいる時は何も作れなくなります。
悲しい時に「うおおおおお!」と泣きながらモノ創りができればカッコ良いですが、僕の場合、ひらすら、ふて寝を続けるだけの地味な姿になってました。
景色は暗く、無力感だけが残り、創作意欲を取り戻す日が来る事など、カケラも信じていませんでした。
全てが終わってみると、今では「あれは僕にとって、創作意欲ポイントをひたすら貯めていた時期だったんだなあ」と思えます。
肝心なのは、不幸が過ぎ去った時に、実はレベルアップをしているという事です。
大ダメージをくらう度に強くなるサイヤ人みたいなもんです。

そもそも不幸力がモノを言う世界に入ってしまったという事自体が、不幸の始まりなんじゃないかと思いますが仕方がないので喜んでおきましょう。
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