コスモ心理研究所-0502-
■■イラショナルビリーフ四人衆■■
ここ子
博士〜！ 論理療法のことをもう少し詳しく教えて下さいよ。
トーバーもイマイチ納得してないみたいですよ。
博士
前回トーバーが言ったように、ワシらが幸せな気分になったり、
絶望したり、恨んだりするのは、自分の価値観が影響しているわけじゃ。
ここ子
周りが自分を絶望させるわけじゃなくて、自分が絶望的に考えちゃうって事ですね。
ああ、でも絶望的な時って、どんどん、みじめな考えが浮かんできて止まらないんですよ。
あたしは何をやってもダメなんだ、とか。
世の中ロクな人がいない、とか。
博士
うん。論理療法では、そんな自分をネガティブな気持ちにさせる考え方を
「イラショナルビリーフ」と呼んでいるんじゃよ。
トーバー
イラショナル（irational）…… 形 「非合理的な」
ビリーフ（belief）…… 名 「思い込み、信念」
つまりイラショナルビリーフとは「非合理的な思い込み」のことですな。
博士
そう。
そしてイラショナルビリーフの反対が「ラショナルビリーフ」なんじゃ。
トーバー
とすると、ラショナルビリーフとは「合理的な信念」というわけですね。
ここ子
前回の例で言うと、「良いことをしたらお礼を言われるべきだ」は
あたしにとってのイラショナルビリーフ。
「お礼を言われれば嬉しいけど、強制したいとは思わない」が
ラショナルビリーフってわけですか？
博士
その通りじゃ。
ちなみに、エリスはイラショナルビリーフを４種類に分けている。
「お礼を言われるべき」という考えは、
４種類のイラショナルビリーフのうちの一つ。
「べきであるビリーフ」と呼ばれるものなんじゃ。
ここ子
なんか変なネーミングですね。
日本語と英語を無理やり繋げた感じで。
博士
そこは勘弁してくれい。
べきであるビリーフの説明に戻るぞ。
人は「こうあって欲しい」という期待を持って生きているよね？
ここ子
はい！ いっぱいありますよ。
それがなかったら人生つまんないですもんね。
博士
しかしな、「こうあって欲しい」という期待を、
「こうあるべきだ」という考え方と混同すると、
自分や他人を苦しめるイラショナルビリーフになるんじゃ。
ここ子
「期待」と「べき」がゴッチャかぁ〜
これってよくある事ですよね。
本当は「友達はあたしと仲良くして欲しい」なのに、「友達はあたしと仲良くすべきだ」って考えちゃうし、
「テストで１００点とりたい」は「テストで１００点とるべきだ」って思っちゃったりするもんね。
トーバー
ここ子さんは、まるでいつもテストで１００点を狙っていたような言い方をしますな。
ここ子
あたしは「１００点とるべき」なんて思った事無いよ！
たとえ話だよ！
もうっ！ 博士っ！ 他のタイプのイラショナルビリーフはないんですか？！
博士
他には「悲観的ビリーフ」というものがあるよ。
とにかく、落ち込んだ、暗い考えになってしまうものなんじゃ。
ここ子
例えば？
博士
「一流企業に就職しなければ、私は幸せになれない」
「異性にもてない自分には価値がない」
「私は皆よりも劣っている」
等の考え方じゃ。
ここ子
そんなこと考えてちゃ不幸せになるのも当然だねえ。
でも、そういう考えってあながち間違ってるとも思えないけど……
別にイラショナルビリーフって事にはならないんじゃないですか？
トーバー
まったく同感です。
「ここ子さんの働いているコスモ心理研究所は一流ではない」
「ここ子さんは異性にもてない」
「ここ子さんは私より劣っている」
これは全て事実なので、ここ子さんが自分のことを不幸せだと思うのは、
イラショナルでは無いと思います。
ここ子
ちがーう！ 絶対イラショナルだぁーっ！！！！！！！！
コスモ心理研究所は一流じゃないけど楽しいとこだよ！
あたしは今は出会いが無いけど、ずっとこのままとは限らないでしょ？
だいたい、もてるもてないが人間の価値じゃ無いじゃない！
それから、トーバーに馬鹿にされたって平気だもん！
あたしの価値はあたしが決めるんだから！！
ハァハァハァ……
博士
お見事！
ここ子君はイラショナルビリーフをラショナルビリーフに変えたようじゃね。
ここ子
ええっ？
博士
今のここ子君のような考え方をしていれば、
逆境にあっても落ち込んだりする事はないじゃろ？
それがラショナルビリーフなんじゃよ。
ここ子
えへへ！
あたしだってやる時はやるんですよ。
どう？ トーバー。
トーバー
あああ…… ここ子さんに合理的に反論されるなんて……
ここ子
ちょっとぉ。また、そんな事言わないでよ。
怒鳴って悪かったからさ。
トーバー
いえ。どうせ私のようなできそこないは黙っていた方が良いのですよ。
郵便ポストが赤いのも、みんな私が悪いのです。
ここ子
ああ、イライラするなあ。
もう、トーバーには何を言ってもダメね。処置なしだわ。
諦めるしかないわね。
博士
おっと！ 今、二人が言っていたのもイラショナルビリーフじゃよ。
トーバー
どこがですか？
博士
これは「非難、卑下ビリーフ」というタイプのイラショナルビリーフじゃ。
「どうせ○○だから」と、他人を非難したり、自己卑下したりして諦めてしまう考えなんじゃよ。
トーバー
しかし、私もここ子さんも「トーバーは駄目なのだ」と結論づけてますよ。
それは単なる思い込みではなく、事実だから意見が一致するのではないですか？
博士
しかし、「どうせダメだ」と結論づけて、今後も諦め続ける事に意味があるんじゃろうか？
ここ子
意味…… ですか？
そっかー…… そうだよね。
どうせダメだと思ったら、悪い状態のまま何も変わらないよね。
トーバー
ええ、たしかに「どうせダメだ」と思うのは非建設的ですな。
私もあらかじめ自己卑下しておけば、他人からそれ以上責められたり、
期待されたりしないので楽になれる気がしていたのですが。
博士
そうなんじゃ。「非難、卑下ビリーフ」は自他を否定する事で、
罪悪感や責任から逃れて楽になろうとする心理が働いているんじゃよ。
トーバー
そのような方法で楽になるのは私の流儀に反しますな。
私も前向きに考えてみますよ。
ここ子
うん。もう、あたしトーバーがどうせダメだなんて思わないよ！
博士
ワシもトーバーがダメだなんて思っとらんよ。
トーバー
おお！ 私は駄目ではない説が続出しているではないですか。
考え方しだいで事実も変わるのですね。
博士
では、最後に「耐えられないビリーフ」の説明をするとしよう。
これは
「嫌いな人と一緒にいるのは耐えられない」
「先行き不安な人生を生きるのは耐えられない」
「告白して、ふられるのは耐えられない」
等の考え方じゃな。
ここ子
あー！ そりゃ耐えられないですよ。当然ですよ。
あと、私は
「酢豚にパイナップルが入っているのが耐えられない」です。
トーバー
私も
「人ごみの中を歩くのは耐えられない」
と常日頃から思っていますが、決してイラショナルだと思いません。
博士
なるほど、どのくらい耐えられないのかね？
死んでしまうほど？
ここ子
いやー。パイナップルごときでは私を殺せませんよ。
告白してフラれた時はさすがに死にたいと思いましたが、この通り生きてます。
トーバー
そうですな。
私も人ごみを歩くのは嫌ですが、何とか耐えています。
むしろ、人ごみの中で私に足を踏まれて、痛みに耐えていた人の方が
私よりも辛い思いをしていたようですな。
博士
ということは、二人とも何とか耐えてきたわけじゃね。
ここ子
うーん。そうですね。
耐えられないと思っても、今まで何とかやってきたかなあ……
それって、耐えられるって事なんですね。
博士
論理療法を設立したエリスは苦労人じゃ。
子供の頃は両親にほとんど相手にされず、
１１歳の時にその両親は離婚。
大学では教授達に評価されず、本人も二度の離婚暦がある。
重度の糖尿病のためにインシュリン注射は欠かす事ができず、
食事は１日八回。夜中にも起きて食べなければならない。
それでも、エリスは言っている。
「人生に最悪な事は無いよ、ただちょっと不便な事があるだけさ」
とな。
ここ子
その通りだね！
エリスの人生が最悪じゃないなら、あたしも自分の人生に
文句ばかり言ってられないわ。
世の中辛いことはいっぱいあるけど、今までどうにかやってこれたもんね。
これからも辛いことは沢山あるんだろうけど……
世の中は自分に都合よく作られているわけじゃないんだから。
博士
そうなんじゃよ。
そこを認めた上で前向きに生きて行きたいもんじゃよね。
トーバー
では、あらためてイラショナルビリーフをまとめてみましょう。
・べきであるビリーフ
・悲観的ビリーフ
・非難、卑下ビリーフ
・耐えられないビリーフ
以上４つですな。
はあ……
ここ子
どうしたの？ また。
トーバー
私は全てのイラショナルビリーフの持ち主でした。
イラショナルビリーフをラショナルビリーフに変えるのは、
もともと自信のある人ならばできるかもしれません。
しかし、私などには到底無理ではないかと思われるのです。
ここ子
でも、エリスも不遇な人じゃないの？
あたしたちってずいぶん恵まれてるよ。
トーバー
いやいや。
不遇かどうかは考え方で決まるのです。
不遇な環境にある人でも、もともと自信があるなら問題がないでしょう。
しかし、私には自信そのものが無いのですよ。
あああああ……
ここ子
また落ち込む〜！ さっきまでの自信はどこへ行ったのよ？！
ほらほら、床を指でグリグリしない！
わあ！ 床が崩れたっ！
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