コスモ心理研究所-0205-

■■防衛せずにはいられない-後編-■■


●同一視


博士
「同一視」は権威のある人物の価値と、自分自身の価値を一緒にして、
自分の評価を高めようとする防衛機制じゃ。

トーバー
「虎の威を借りる狐」「ジャイアンの威を借りるスネ夫」ですね。

ここ子
あたし、「歌手の○○さんの知り合いなんです」って自慢をよくしちゃうんですよ。
有名な人と知り合っている事で、その人と格が同じ気になっちゃうんですよね。

トーバー
しかも、そういう人に限って、実際には1回会った事があるだけだったりしますな。

ここ子
失礼な事言わないでよ! あたしは2回会ってるよ! 2回も!!

トーバー
自分が所属している会社や学校、生まれた国を自慢する事で自分の権威を高めようとする人もいますね。

博士
うん。それも同一視じゃ。
同一視は自分に自信が無い時に出やすいものだから、自分が同一視している事に気づいたら、
自分に何らかの劣等感が生まれていないかどうか、振り返ってみるのも良いね。

ここ子
あ! そういえば、その人には街で会った時に手をふった事があるから2.5回会った事にしよっと!
向こうは気づかなかったけど。


●合理化

博士
ある日キツネがブドウの木を見つけました。キツネはその木にぶら下がっているブドウを食べようとしました。
キツネは何度も飛びつきましたが、ブドウに手が届きません。
キツネは言いました。「このブドウは酸っぱいに違いないよ。ああ食べなくて良かった」。

ここ子
おじいちゃん、もっとお話きかせてー!
って、何でいきなりイソップ童話なんですか!?

博士
実は、この話でキツネに生まれた防衛機制が「合理化」なんじゃよ。
これは自分に不都合な状況に理由をつけて、心の安定を保つ防衛機制なんじゃ。

トーバー
悪い事が起きても、前向きに考えられるなら、問題は無いのではないでしょうか?

博士
うん。他の防衛機制にも言える事じゃが、合理化も決して悪いものではないよ。
ただ、やはり自分の気持ちに気づいた上で、前向きに考えるのと、
防衛に気づかずに、ただ前向きにふるまうのとでは、だいぶ違ってくるものじゃ。

ここ子
うーん。結構厳しいんですねえ。
あたしは合理化に気づかなくても、ポジティブに生きられるなら、その方が気楽でいいや。

トーバー
さっそく合理化してますなあ。


●反動形成

博士
「反動形成」はな、嫌いな人がいても、その気持ちを自覚するのが嫌で、仲が良さそうにふるまったり、
仕事が嫌なのに、仕事が嫌いな自分に気づきたくないので、無理に頑張ってしまうというものじゃ。

トーバー
どうにも非合理的ですな。
嫌いな人とのつきあいを避ける防衛機制なら分かるのですが。
どうして、そのような事が起きるのですか?

博士
たいていの人は、相手が嫌いだと思っても、表向きは仲良く振舞う事ができる。

トーバー
本音と建て前の使い分けですね。

博士
ところが、「他人を嫌うのは悪い事だ」という思いこみが強いと、
自分はその人が好きなのだと思いこもうとするんじゃよ。

トーバー
ああ、それで必要以上に仲良くふるまうわけですね。

博士
うん。反動形成が働いている関係は、罪悪感や嫌悪感を閉じ込めているから、
気がつかないうちに、どんどん歪みが大きくなっていく事になるんじゃよ。

ここ子
うわあ! 何だか屈折しまくってますね。

博士
ちなみに、好きな人に、つい意地悪してしまうのも反動形成じゃよ。

ここ子
それは全然屈折してないですね。

トーバー
ここ子さんは小学生の時、好きな男子にキン肉バスターをきめて入院させたそうですが。

ここ子
そんな事もあったわねえ。幼い頃には誰にでもある、甘酸っぱい思い出よ……

トーバー
相手もそう思っていると良いですがね。


●昇華

ここ子
防衛機制って、自分の心を安定させる事ができるのはいいけど、やっぱり問題の方が大きいみたいですね。

トーバー
ドラえもんの秘密道具みたいですな。

博士
自分の心のというものが、いかに無意識に振り回されやすいか、分かってもらえたかな?

ここ子
充分分かりました。
でも、なんだか身につまされる話ばかりで落ちこみそうですよ。

博士
それでは、最後に最も健全な防衛機制。「昇華」の説明をしよう。
これは自分の抑圧された衝動を社会的に認められる形で表現するものなんじゃ。

ここ子
例えば?

博士
コンプレックスの強い少年が、その衝動を漫画を描くことに向けた事で日本漫画史に名を残したり……

トーバー
手塚治虫ですね。

博士
少年院のゴロツキだった少年が、破壊的衝動をボクシングに向けた事で日本漫画史に名を残したり……

トーバー
明日のジョーですね。

ここ子
現実とフィクションがゴッチャじゃないですか!

トーバー
ここ子さんは昇華の経験は無いんですか?

ここ子
こればっかりは全然思い当たるフシが無いなあ。
結局余計落ちこんだだけだっ!



博士
以上、防衛機制の一部を紹介したわけじゃが、この他にも色々な種類があるぞ。

攻撃、自責、退行、補償、置き換え、摂取等じゃ。
興味があったら調べてみると良いじゃろう。

ここ子
こうしてみると、あたし達って、いつも自分の意思で行動してると思ってたけど、
けっこう無意識に振りまわされてるんだなあ。

博士
そうなんじゃ。
人間のする事は、全てわざとやっているわけでは無いんじゃよ。

ここ子
そうなのかぁ…。
あたしもずいぶん失敗したし、他人から嫌な思いもさせられたけど、
ちょっと許せるような気がしてきた。

博士
そうじゃな。
心理学の知識は、自分や他人を責めるためではなく、許す事に使えるようになりたいのう。

ここ子
今回でフロイトについての解説も終わりという事ですけど、フロイトの理論はこれで全部なんですか?

博士
とんでもない! これはフロイトの理論のごく一部じゃ。
これからもいろいろな心理学の話をしていくが、それらは全てフロイトが出発点なんじゃよ。

トーバー
フロイトを発展させた理論も、フロイトに対抗した理論も、全てフロイトを中心にして生まれているんですね。

ここ子
さて、お話も一段落した事だし、また掃除を始めようかな。

トーバー
もう夜も遅いですし、私も手伝いましょう。さて、何から始めましょうか。

博士
じゃあ、まず、あそこでフラフープに興じている女の子を止めてくれんかね?

■■第2章 完■■


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