コスモ心理研究所-06-

■■ブラックここ子現る!■■


博士
みんなー! ちょっと来てくれーい!

トーバー
何でしょうか?

博士
ジャーン!!

遂にワシの大発明「超スーパーハイパーマッサージ機」が完成したんじゃ!

ここ子君座ってみてくれんか?

ここ子
見たところ普通のイス型マッサージ機みたいですけど。

博士
ワシのは特別製じゃよ。

量子力学と遠赤外線効果を応用した新方式なんじゃ。
体を構成している分子に振動を与えてマッサージするんじゃよ。

トーバー
話を聞いていると、まるで電子レンジの仕組みのようですが。

ここ子
うわあ…… 大丈夫なのかなあ…… 

一応座ってみましたけど、かえって緊張して肩がこりましたよ。

博士
何? 肩がこった? そいつは好都合じゃ。
今すぐほぐしてしんぜよう。

では、スイッチオン!

ここ子
わあああああ。
かかかか体全体がふふふふ震えて気持ちいいー!

博士
そうじゃろう、そうじゃろう。

分子レベルでマッサージできるのはワシの機械だけじゃよ。
人体実験大成功じゃな!

ここ子
ええっ?!
ちちちちちょっと待って下さい!
じじじじじ実験って、副作用は無いんですか?!

博士
うーん。それはまだ分からんのう。
痛いところがあったら言ってくれい。

ここ子
わあ!

あたし降ります!

そんなんじゃいつ爆発してもおかしく……


ドン!!




トーバー
ああ、驚きました。

ここ子
もう。博士ってロクなもの作らないんだから。

ブラックここ子
博士はすっかりのびてるぜ。

トーバー
確かに気絶してますな。

ここ子
鼻ちょうちん出して寝言言ってる。

ブラックここ子
まったく、いい気なもんだぜ。

ここ子
本当に、ねえ。

トーバー
さきほどから気になっているのですが……

ブラックここ子
何だい?

ここ子
何よ。

トーバー
何故、ここ子さんが2人いるのですか?

ここ子
へ!?

あ! あなた誰?!

ブラックここ子
何だ。今頃気づいたのか。
まったく我ながらあきれるぜ。

あたいはブラックここ子さ!

ここ子
本当だ! 髪が黒い!

トーバー
マッサージ機の分子振動で、分身してしまったようですね。
実に科学的かつ合理的な現象ですな。

ここ子
ホントに!?
ホントに科学的なの!?

ブラックここ子
そんな事どうでもいいじゃねえか。

せっかくだから、あんたらに言いたいことを全部言わせてもらうぜ。

ここ子
何? ずいぶん偉そうじゃないの。

ブラックここ子
偉そうなのはそっちさ!

何だい。今まで他人を思いやるとか、実現傾向だとか、ラショナルビリーフだとか、
歯の浮くような事をベラベラと楽しそうにしゃべってさあ。

ここ子
それがどうしたのよ?
とってもいいことじゃない。

ブラックここ子
へっ!
はっきり言ってさあ、気持ち悪いんだよ!

自分達ばっかりいい子ぶっちゃってさ!

あんたらザビエルの生まれ変わりかっての!

ここ子
そんなことないよ! いい子ぶってなんかいないってば!

ブラックここ子
じゃあ何なのさ。
いつもいつも博士に言いくるめられちゃってさ。

ここ子
う…… うぐ……

ブラックここ子
本当はちっとも納得してないんだよ。
そのくせ、いいカッコしたいからうなずいてるだけなんだよ!
違うか?

ここ子
あ…… あう、あう。

ブラックここ子
何とか言ってみろ! この偽善者!

ここ子
あ……  あああ…… どうしよう。

博士は気絶してるし、
トーバーなんてただでさえ嫌味ばかり言ってるくらいだから、
助けてもらうどころか敵に回りそうだし……

ブラックここ子
フッ…… 
どうやらあたいの勝ちのようだね。
それじゃ、あたいから要求を出させてもらうぜ。

「自分がいい人だと思わないこと!」
「自分の心の暗いところを認めること!」
「清く正しく美しくを強制しないこと!」
まだまだあるぞ!

ここ子
あああ、もうダメだぁ〜
地球はおしまいだぁ〜

トーバー
ちょっと失礼。

私の意見を述べさせて頂いてもよろしいでしょうか?

ブラックここ子
お前、さっきから黙っていたけど、真剣に聞いていたんじゃねえの?

トーバー
ええ。大変興味深かったものですから。

ここ子
やっぱりトーバーは頼りにならない〜!

ブラックここ子
で、納得したんだろ?
言いたい事があったら何でも言ってくれよ。

トーバー
では、遠慮なくあなたの誤解を指摘させて頂きます。

ブラックここ子
何い!?

トーバー
まず、当研究所で学んだ限りでは、
「人間は清く正しくあらねばならない」とは
聞いておりません。

ブラックここ子
そんな事ないだろ。
何かっていうとすぐに「自分の気持ちに素直に」とか言って、
なんだか「いい人講座」みたいだぞ!

そのうちどんどん良い事をしないと気がすまなくなるに決まってるよ!

トーバー
そうでしょうか?

自分の気持ちに素直になり、無理をしなくなるわけですから、
無理をしてでも他人に親切にするような行為は減ると思われます。

いわゆる「いい子ちゃん」から「自然体の人」になるわけです。

ブラックここ子
だったら他人に迷惑をかける悪い奴はどうなるんだ?

トーバー
「悪い子」から「自然体の人」になるのではないでしょうか。

自分の心が満たされていれば、わざわざ他人に嫌がらせはしないでしょうからね。

ブラックここ子
ってことは、やっぱりお前らは怒ったり、悲しんだりしないで
いつもニコニコ笑ってる極楽みたいな世界が正しいと思ってんだろ!?

あたいは嫌だね! そういうのはよ!

トーバー
いいえ。
むしろ、怒りや悲しみ等のネガティブな感情は自覚した方が良いと
私は聞きました。

ネガティブな感情に気づかないから、人は劣等感に苦しんだり、
他人に恨みを持ったり、嫌がらせをするのではないでしょうか?

ブラックここ子
だけどさあ、お前らは結局、心の明るい部分ばっかり見てるんだろ!
あたいはそこが嘘臭くって嫌なんだよ!

トーバー
いいえ。
特に心理学の開祖。フロイトは心の闇をクローズアップしていました。

無意識はまさに心の闇です。
それに翻弄されるのが人間だと訴えたのです。

ブラックここ子
ああ、分かったよ。
どっちみちフロイトは弟子をいじめたりして、闇っぽかったしな。

でもロジャースは許せねえ!

なんだよ。実現傾向とか、受容しろとか、共感しろだとか、
人間ってのはそん事が簡単にできるほど、ご立派じゃないんだよ!

トーバー
確かにその通りです。

受容や共感が簡単にできないからこそ、「自己一致」という
自分自身をチェックする事を重んじているのでしょう。

ブラックここ子
じゃあ、「論理療法」のエリスはどうなんだ!?

他人に腹を立てたりするのはイラショナルビリーフなんだろ?
いつも正しくなんていられないだろ?!

トーバー
「腹を立てるのが良くない」と考えるのもイラショナルですよ。

エリスも他人と喧嘩もしますし、間違いも犯しますが、
「それがどうしたっていうんだい」
とよく言っているそうですよ。

ブラックここ子
く…… くそーっ!

じゃあ、心理学を勉強しても
完璧な人間にはならないって事なのかよ!

トーバー
まあ、そうでしょうな。

心理学は自分の心がいかに完全かを証明しようとしているわけではなく、
自分の心がいかに不完全かという事を前提としているのです。

つまり、不完全で当たり前と言いたいわけなのですよ。

ここ子さんは何か言いたい事はありませんか?

ここ子
あるよ!

さっきから言いたかったんだ!

ブラックここ子
まだ、あたいに何かあるのかい?

ここ子
「あたい」って言うな!
古い! カッコ悪い! なんだか痛い!

ブラックここ子
え? 自分のこと、あたいって言うの変?

ここ子
(コク)

トーバー
(コク)

ブラックここ子
ギャアアアアア!
今のが一番こたえるぅぅぅぅぅ。

ここ子
見たか! あたしの力を!

ブラックここ子
ハアハア……
どうやらあたいの負けのようだね。

あたいは自分の心の闇を素直に受け入れられなかったのさ。
だって、なんだか自分がどんどんちっぽけに思えてくるじゃないか。
だから心理学に腹を立ててたし、ずっと疑ってたんだよ。

でも、スッキリしたからあたいは消えるぜ。

じゃあな!

ここ子
さよならー!

トーバー
おお! ここ子さんとブラックここ子さんが融合してゆく!

ここ子
…… ……

トーバー
どうやら完全に一つの体に戻ったようですな。

ここ子
はあはあ、恐ろしい戦いだったわ。

でも、トーバー。
あんた時々すごいね。見直したよ。

トーバー
失敬な。
私は時々ではなく、「常に」凄いのです。

博士
うーん……
いったいどうした事じゃ?

ここ子
あ、起きた。

トーバー
実は博士が気絶している間に、
かくかくしかじかという事があったのですよ。

博士
それは大変だったのう。

ここ子
もう、大変じゃすまないですよ。

あたしなんて本っ当に大変だったんですから!

トーバー
大変オロオロしていただけのようでしたが。

ここ子
いいじゃない! 気持ち的に大変だったんだから!

博士
じゃあ、ここ子君、ブラックここ子君と融合して、
今どんな気持ちがする?

ここ子
え…… ええと…… 
なんだか、なんだかとってもいい気分です。

胸のつかえがとれたって言うか……

博士
それはね。ここ子君の代わりに、ブラックここ子君が解消してくれたからじゃよ。

ここ子
うん。

あたし、いつも頑張ってるつもりだけど、いろいろ上手くいかなくって、
勉強しても勉強しても、あたしはちっとも変わらなくって……

でも、今はブラックの満足感が伝わって来るから、
すごく幸せです!

博士
ここ子君は良い経験をしたね。
自分の中に隠れた心の声を聞くことができた訳じゃからね。

ここ子
ブラックって、やっぱりあたし自身だったんですか?

博士
うん。そうじゃよ。
誰の心の中にも自分では気づかない自分がいるものなんじゃ。

自分の心の内にいる自分については、心理学を学ぶ者の課題なんじゃよ。

さ、その前に発明を完成させんとな!

ここ子
発明って何を?

博士
次はアトミック原子力あんま機じゃよ!

トーバー
まったく懲りてませんなあ!

ここ子
もう、博士のバカバカバカバカバカバカ!!!

博士
ギャ! こここここ子君、そそそその技は電気あんまっ!

ワシの股間が大ピンチ!

嫁入り前の娘がそんな技使っちゃいかーん!

トーバー
嫁入り後の方が問題かと思われますが。

博士
うう…… ワシは単に科学的好奇心を満たそうと思っただけなのに……

ガッガガガガガッ!!

トーバー
やれやれ、博士のような人でも心理学を語れるのですから、
心理学はまだまだ充分不完全という事ですな。

■■コスモ心理研究所 完■■



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