対談:ライポーン王国近代史




キミコ:
皆さんこんにちは。超電気科学研究所の羽水(うすい)キミコです。
今回はゴゴー軍団撃退記念として、ゴゴー軍団との関わりが深かったライポーン王国について
様々な話をバルカイザーの開発者、天護(あまもり)博士にうかがいます。
博士、よろしくお願いします。

博士:
うむ。よろしく。

キミコ:
ライポーン王国は1890年に「アドベンタム号事件」を起こしてますが、
事件名の由来となったアドベンタム号はハンナ・アマモリさんの設計なんですよね。
アマモリ家って既に19世紀末の段階で凄い科学技術をもってたんですね。

博士:
19世紀どころか、ウチは江戸時代から凄かったぞ。
なんと言っても、万能の天才、平賀源内の子孫だからな。

キミコ:
平賀源内って獄死したんじゃなかったんですか?

博士:
実は彼は田沼意次や蘭学者たちの協力で秘密裏に脱獄していたんだ。
それで姓を「天護」に変えたんだよ。

キミコ:
たしかにアマモリって滑稽本の作者らしいネーミングですもんね。

博士:
滑稽とは失礼千万だぞ!

キミコ:
ええと…… だから、ハンナさんも「エレキテル」に始まる様々な技術を受け継いでたんですね。

博士:
当時としては、ハナさんの技術力も大したものだったよ。
跳躍する装甲車はもちろん、火炎放射器も彼女の発明だ。

キミコ:
ハナさん?

博士:
ああ、ハンナさんの日本名は「ハナ」なんだよ。
父親が日本人で母親がライポーン人のハーフだから、向こうではハンナと呼ばれてたんだ。

キミコ:
もしかして博士はハンナさんの息子さんですか?

博士:
違う違う。ワシは甥だよ。
だいたい、ワシがハナさんと名前で呼んだ時点で親じゃない事に気づかんのかね?

キミコ:
それは博士ならありうるかと。
そういえば、ライポーンと言えば、「アドベンタム号事件」の前に「蒸気兵団暴走事件」が起きてますよね?
ライポーン王国が設立した世界初の機甲師団、蒸気兵団が大暴走を始めたという……
どうしてそんな事が起きたんですか?

博士:
「蒸気兵団暴走事件」を引き起こしたのは電気精霊だ。

キミコ:
その電気精霊って、どんなものだったんですか?

博士:
本来、この次元には属さない知的生命体だ。
昔から、たびたび時空の狭間からこちらの世界に来ていたそうだ。
人魂やウィルオ・ザ・ウィスプの正体はこれだな。

キミコ:
私達とは体の組成が異なる知性体だったんですね。

博士:
しかし、ライポーンの科学者は知性がある事に気づかなかったようだ。
科学者達が、この世界に来た電気精霊を捕らえる方法を発見し、独自の発電方式とした事が始まりなんだ。
当時は、まだ発電所の方式を交流にするか、直流にするかで揉めていた時期だった。

キミコ:
交流と直流の論争ですか。
それって悪名高い「電流戦争」ですね。エジソンがえげつない妨害を繰り返していたっていう……

博士:
ライポーンはそんな物に巻き込まれず、独自の「電気精霊方式」で世界に先駆けて大型発電所を創ったんだ。

キミコ:
それって、どんな方式だったんですか?

博士:
大型の特殊な檻に電気精霊の王を閉じ込めて無理矢理放電させたんだよ。
しかし、精霊の王が檻の中から電気精霊がライポーン軍の兵士の筋肉に微弱な電流を送って
逆に操り人形にする事で精霊達を解放し、軍そのものを乗っ取ったのだ。

キミコ:
どっちのやった事も酷いですねえ。

でも「電気精霊の王」を開放して、蒸気兵団暴走事件を終わらせたのが
ゴゴー軍団の円盤だったわけですね。
最初はゴゴー軍団も良い事をしたんですね。

博士:
いや、暴走の鎮圧も侵略行動の一環のようなものだから、善悪は関係ないな。
しかし、「蒸気兵団暴走事件」がきっかけで外宇宙と異世界にも文明がある事は、
数十年前におぼろげに分かり初めていたんだよ。

キミコ:
異世界から来た精霊って、なんだかメグリロちゃんみたいですね。

博士:
なんだ君は知らなかったのか、メグリロやビリケンも同じ異世界の出身だぞ。

キミコ:
本当ですか!?

博士:
天護家は、ハナさんがメルという電気精霊の援助を受けて始めた研究を昇華させて、
「超電気エネルギー」を得る事が出来たんだ。

ちなみに、バルカイザーのエネルギー源であるバルカニウム鉱石は1960年代初頭に
異世界から次元を超えて研究所に突然現れたものだ。
これが電気精霊に関わるものだという事は、電気の専門家でもある天護家にはすぐに分かったよ。
しかし、複製する事は不可能だった。
バルカイザーを作る事には成功したが、バルカニウムの研究は頓挫して今に至るわけだ。

キミコ:
バルカニウムって異世界の物質だったんですか!?

博士:
今更いちいち驚くとは、君ものんきだな。

キミコ:
のんきとか言わないで下さい。
そもそも、私が知らない事が多いのは博士が重要な事を全部秘密にしちゃうからじゃないですか!

博士:
秘密裏に作らなかったら、秘密兵器にならんじゃないか。

キミコ:
助手の私にまで秘密にすることないでしょう!

でも、博士でさえ、超電気の事を「よく分からないが、凄い電気」と言ってましたし、
私が秘密を知らされても役には立てなかったと思いますけど……

博士:
メグリロ達に異世界がどんな所なのかを聞いた時も、話が抽象的すぎて理解できなかったしな。

キミコ:
なんというか「星の王子さま」の宇宙観に似てるかもって事くらいでしたね。

いけない、つい異世界の話に脱線しちゃいました。
ライポーンに話を戻しましょう。
19世紀のライポーン王国は蒸気機関の分野でも突出した技術力を持った国でしたね。

博士:
資金も豊富にあったしな。フラバル建設財団の莫大な資本力が科学技術の発展をバックアップしていたんだ。
世界史上、類を見ないほどの超巨大工場もフラバル建設財団の大資本があってこそだよ。

キミコ:
フラバル建設財団はカシアさんの家ですね。
ライポーン王国は小国なのにフラバル建設財団はなぜそんなに大金持ちだったんですか?

博士:
なんでも、キャプテンキッドの隠し財宝を発見したというのが最も有力な説だ。

キミコ:
その話って伝説じゃないんですか?

博士:
よその家の歴史だから、詳しい事はワシにも分からんが、
それくらいの事が無ければ、大国の国家予算級の財産は持てないだろう。
当時のライポーン王国の発展はフラバル家のバックアップあっての事で、天護家は関係が無いんだよ。

キミコ:
たしかに、世界に先駆けて戦闘車両を実用化したのも天護家が関わる前でしたね。
それだけの技術力があったのに、ライポーン王国は世界の科学史に出てこないですね。

博士:
直接的には大した影響は与えていないからな。

キミコ:
間接的には?

博士:
イギリスからライポーンの視察に行ったチャーチルがライポーンの鉄車軍団を見て、興奮して帰国した。
それがきっかけで、第1次大戦中の1915年に世界初の戦車「王立陸上艦センティペード」が完成した。

キミコ:
その程度なんですか!?

博士:
イギリスの「陸上艦委員会」が出した初期の戦車案には、重さ1000t等の超巨大兵器もあったろ。
あれはライポーン王国の大型鉄車を再現したかったわけだ。

キミコ:
結局、イギリスは技術的な問題がクリアできなかったんですね。

博士:
同時期に戦車を研究していた、フランスもドイツもロシア帝国もな。
ライポーン王国は蒸気鉄車を秘密にしてはいなかったが、
他の国の将校は機動戦は歩兵と騎兵で充分という持論を変えず、
特に、ライポーン式の機械化部隊の編成には猛反対していたんだよ。
そのため、まともな技術交流は行われなかったんだ。

キミコ:
ライポーンは時代を先取りしすぎていたんですね。
ついでに伺いますが、ハンナさんが科学史に与えた影響は?

博士:
彼女の「サヤエンドウに人間が入っている」等の妄想は、後のSF作家に大きな影響を与えた。

キミコ:
それ、科学史に関係無いじゃないですか!

博士:
アドベンタム号も量産されていないし、科学史に残ったのは火炎放射器くらいだな。
ハナさんは特許も申請していなかったから、火炎放射器も別の人間の発明と記録されているよ。

キミコ:
アドベンタム号は、当時の基準で言えばバルカイザー並みの超兵器なのに……

博士:
何を言う、いつの基準でもバルカイザーの方が100億万倍凄いぞ!

キミコ:
わかりました、わかりました。
ええと、ライポーンの蒸気鉄車は19世紀の時点で、
20世紀初頭の第1次大戦に登場した戦車よりも優れていたんですよね?
それが、兵器の発達に影響を与えていないのは不思議なんですが。

博士:
まず、アドベンタム号事件で機甲師団が壊滅寸前になったのが大きいな。
フラバル財団もその後は軍に資金を出さず技術力は25年間停滞。
ガソリンエンジンの採用はもとより、鉄車にはキャタピラもつけられなかった。
第1次世界大戦にライポーン王国は連合国側として参戦し、蒸気鉄車は船に乗せられて
フランス戦線に投入されたんた。
そして、見事にドイツの塹壕にはまって、それでおしまいだ。

ライポーンの蒸気鉄車は車両としての信頼性は高かったが、キャタピラ無しでは、
塹壕の突破を目的に開発されたイギリスの「マークT」等、故障の多かった初期の戦車と比べても
実質的な戦闘能力は劣っていたんだよ。

キミコ:
それでは空軍はどうだったんですか?
ライポーンは飛行船で編成された、強力な空中艦隊を持っていたはずですが。

博士:
ライポーン空軍は戦闘飛行船に頼ったままで飛行機は開発しなかったし、第1次大戦にも参加しなかった。
戦闘飛行船が戦ったのは1936年に起きた「ライポーン内戦」の時だな。
これは、ソビエトの援助を受けた共産主義陣営と、イタリア、ドイツの援助を受けたファシズム陣営の対立に始まり、
さらに、どちらが勝っても困るイギリス、フランスが介入した3つ巴の乱戦だった。

この時、ライポーンの戦闘飛行船と戦闘機の戦いが初めて行われた。
各国の空軍は、実用化されたばかりの金属単葉戦闘機を投入していたんだ。
ライポーン内戦は「兵器の実験場」と呼ばれたくらいだからな。

キミコ:
当時の最新テクノロジーがライポーンに結集したんですね。
ライポーン空軍の技術力はどうだったんですか?

博士:
ライポーンの装備はこの時点でも19世紀末とほぼ変わっていない。
ソ連の「ポリカルポフI-15」、ドイツの「メッサーシュミットBf109」等、各国の最新鋭機に
ライポーンの戦闘飛行船は全く歯が立たなかったんだ。

キミコ:
ライポーンは半世紀の間に遅れた国になっちゃったんですね。

博士:
うむ。そして内戦の結果ライポーンはイタリアの統治下に置かれる事になった。

キミコ:
フラバル建設財団は何もしなかったんですか?

博士:
やっていたとも。重要な事をな。
今までライポーンの政治と科学技術に貢献していたフラバル建設財団は、ライポーンの内政に全く関与しなくなった。
特にカシア・フラバルが財団を運営するようになってからはね。
カシア・フラバルは「ライポーン王国をほったらかす」という事をしたんだよ。

キミコ:
ええ!? 何故ですか?

博士:
王国ではなく、地球を守るためさ。
フラバル建設財団は、その存在目的を王国の発展から地球防衛に切りかえたんだ。
そもそも、ライポーンが技術立国のままでいたらどうなったと思う?

キミコ:
技術の停滞がなければ、ジェット機や宇宙ロケットを世界に先駆けて完成させたでしょうね。
そうなると、第2次世界大戦が終わる頃には、政治的にはアメリカとソ連の板ばさみになって、
最悪、ドイツのように分割統治されちゃったかも。
結果的にゴゴー戦争中にベルリンの壁もなくなって、冷戦も終わりましたけど。

博士:
ライポーンは第2次大戦後は一応西側に所属したものの、米ソからマークされる事もなく、
国際情勢からも遠い存在となったんだ。

キミコ:
冷戦に積極的に関わる事もなかったんですね。
でも、それと地球防衛の関係が分からないんですが……

博士:
君も科学者なのに鈍いな。
天護家にいくら技術があっても、超電気科学研究所やバルカイザーを作る資金を出せると思うかね?

キミコ:
ええっ! じゃあ、この研究所を作ったのは……

博士:
フラバル建設財団だよ。表舞台から退いたとはいえ、建設技術は世界一だからな。

キミコ:
そうだったんですか!?

博士:
驚くのはまだ早いぞ。
実はな、君らの給料はゴゴー戦争が終わるまでは全て財団が払っていたんだ。

キミコ:
ひえーっ!?
てっきり博士が、特許料か何かで儲けたお金を出してくれてるんだとばかり思ってました。
ずっと私が帳簿を預かってたのに……

博士:
名義上はワシが払っている事になっていたからな。
だいたい、ワシが特許を申請したら、せっかくの秘密がバレるだろうが。

キミコ:
たしかにバルカイザーの秘密を守る事が最優先でしたもんね。

博士:
バルカイザーの情報が宇宙人に漏れていたら、ロズ将軍も週に一回ごとの逐次攻撃ではなく、
戦力を整えて大攻勢を仕掛けてきただろう。そうなれば、さすがに少しは苦戦したかもしれんからな。

キミコ:
「負けたかも」とは思わないんですね。
それにしても博士の作戦勝ちに終わって良かったですよ。

博士:
秘密は宇宙人だけでなく、地球人にも知られるわけにはいかなかったんだぞ。
超電気科学研究所の技術を超大国が手に入れたら、核兵器以上の脅威になったからな。
フラバル建設財団と天護家は東西陣営の戦争に参加せず、秘密裏に地球防衛の準備を進める事に全力を傾けたんだよ。
もちろん、第一次ローラン戦争への介入など、例外処置をとった事もあるがな。
まあ、地球連邦設立の気運が高まっている今では、関係の無い話だよ。

キミコ:
何十年もかけて、フラバル家とアマモリ家は地球を守る体制を固めていたんですね。

そういえば、ゴゴー軍団が来る前なら世界征服だってしようと思えばできたのに、博士はやらなかったんですね。
少し見なおしちゃいました。

博士:
まったく、君はワシをどういう目で見ていたんだね?
戦車や戦闘機のような地球製兵器と戦って世界征服するよりも、
宇宙人の兵器と戦った方がずっと面白いじゃないか!

キミコ:
あ! ここはオフレコでお願(プツッ)




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