『ブルバースト対暗黒ペタ将軍』
死闘!アトラク軍団!


1★プロローグ

2004年5月9日、埼玉県草加市の小学校で毎年行われる「草加こどもまつり」の日だ。
ここでのヒーローショーは毎年の目玉イベントである。
もう、5年以上続けているので、小学1年生も6年生になっている。
それは意義深い事だなあと、朝、会場の学校に向かう時にスタッフの人達と話しあったりもしていた。

ちなみに、僕のショーでの役割は声優である。
今回の主役ヒーロー、ブルバーストの声だ。
マスクをつけたヒーロー、怪人は喋る事ができない。
声優は役者達の代わりに、子供達の見えない所で、マイクで声を張り上げるのだ。
今回も気力は充実。
不安なのは、昼頃からぐずつき始めるという天候だけだった。

ただ、幸いな事にショーの最中に雨を経験した事は一度も無かった。
たしかに4年前の草加こどもまつりはショー終了後に土砂降りがあったりと、
肝を冷やす場面は何度もあったが、大事に至った事はなく、今回も大丈夫だろうとたかをくくっていたのだ。

2★リハーサル

10時頃から練習を続ける。トラブルも無く順調に進む。
何も問題は無さそうだ。
いや、少々あった。今回のシナリオは、効果音がきっかけで役者が動いたり、セリフを言ったりする事が多く、
音声の通りが良くない草加のショーにはあまり向いていないという懸念もあったのだ。

特に今回はブルバーストとお姉さんの長いセリフのやりとりがある。
※シナリオ「#7 恐怖を払いのけるブルバースト」参照。
声が上手く聞こえれば良いが、音響が悪ければ台無しになってしまう危険性もある。
また、長いセリフが入ると、ショーの躍動感が損なわれるのではないかいう不安もあり、
僕は早めに終わらせようと提案した。
しかし、シナリオを書いたレッドさんが、ここは見せ場にしたいと意気込んでいる。
だったら何とかやりぬこうじゃないか。
不安はあったが、多少の困難があっても、何とかなると言う自負もあった。
「ヘレン=ケラーだって偉業を成したんだから、大丈夫!」
などと、強がってるんだか、楽観してるんだか分からない冗談をとばして、心配しない事にした。
それが良くも悪くもアトラク軍団のノリなのだ。
そう。良くも悪くも…。

ただ、やはり音は重要な要素だという事もあって、音響係の陛下が練習をしている教室に、
小さなスピーカーを運び込んでくれた。ナイス陛下!
そして、効果音、BGMを聞きながらリハーサル。
よしよし。いい感じだ。
そのうち、小雨が降ってきた。

もしかすると、ショーは中止になるかもしれないとの話もあった。
中止になるのは仕方が無い。しかし、いつもよりスムーズにリハーサルが進んでいるし、
ストーリー展開もアトラク軍団好みだったので、ぎりぎりまで頑張ろうという気概に満ちていた。
12時50分。外に出ると、雨がしっかり降っていた。

3★ブルバーストショー前半戦

土砂降りという程ではないが、傘をささずに外に出られる程でも無い。
こりゃダメだ。
もう、ステージの前には誰もいないだろう。
子供達がほとんどいない中で僕らはいったい何をすれば良いのだろう。
そんな弱気が頭の中をよぎった。
ところが、ステージ前は沢山の傘と子供達でいっぱいだったのである。

よし、行ける!
司会のお姉さんもステージで元気良く挨拶。
さすがはプロ!
あっという間に子供達の心をつかんでいる。
子供達も大きな声で挨拶!
悪くない雰囲気だ。いや、絶好調だ!!
毎年恒例のイベントなので、子供達のノリも最初から良いのである。

しかし、トラブルは起きた。
マイクから声が出たり出なかったりするのである。
調子が悪いのがマイクなのか、スピーカーなのかは分からない。
慌てる音響、声優陣。
しかし、ショーは始まってしまった。
もう、後戻りはできない。

そして、畳み掛けるトラブル。
スピーカーからBGMが全く出なくなったのである。
これでは、楽屋の役者達は登場のタイミングがつかめない。
僕の頭は真っ白になった。

BGMは聞こえないものの、何とか段取りどおりに、怪人軍団が登場。
ステージ上を練り歩く怪人達。
しかし、ブルバーストはなかなか来ない。
「早く来ないと、子供達を喰っちまうぞ!」
「ブルバースト怖気づいたか!」
と、早く来るように怪人のセリフを叫ぶ声優達。
それでもヒーローは来ない。
「早く来てくれ!ブルバースト!!」
地球のピンチになったかのように、僕は心の中で叫んでいた。

ようやく、ヒーローブルバースト登場。
何だかマイクの効きが悪いような気もするが、興奮してセリフを語る。
しかし、役者の動きがちぐはぐだ。
後にビデオで見て分かったのだが、結局スピーカーからはBGMだけでなく、声も全く出ていなかったのだ。
これでは怪人がブルバーストの名を呼んでも来ないのは当然である。
少し考えれば分かる事なのに、熱中とパニックのせいで気づかなかったのだ。

ブルバーストと異次元戦闘獣の戦い!
今にして思うと、雨の中で役者の人達は物凄く頑張っていた。
ヒーロー、怪人の別なく、気ぐるみを着た時の視界は恐ろしく悪い。
視界が狭くなる上に、曇りガラスを通して外を見るようなものなのである。
実はただ歩くだけでも大変なのだ。

そして、雨のショーが恐ろしいのは、床が滑りやすくなる事である。
気ぐるみのブーツは底が固く、実はスニーカー等とは比べ物にならないくらい歩きにくい。
そんな中で、皆はピッタリと息のあった殺陣をこなしていた。
ある時は交互に、ある時は同時にブルバーストに襲いかかる怪人軍団。
それをいなし、反撃するブルバースト。
最悪のステージコンディションの中で、戦い抜いた役者達の度胸に喝采を送りたい。

ブルバーストは異次元戦闘獣軍団に辛勝し、ステージを去った。
完璧にこなしたアクションシーン。しかし、セリフも音楽も、効果音も無かった。
彼らも無念だったに違いない。

次は子供達とのお遊びタイムだ。
段取りではイス取りゲームをする事になっていたが、この雨ではとうてい無理である。
それでも、進行役のお兄さん、ブルさんはお土産を持ってステージに踊り出た。

4★お遊びタイム

ブルさん。
彼はブルバーストの企画、製作者で、ビデオでは変身前の條介役、更には監督も努めている。
それだけでは無い。プロのショーでもリーダーとなって、バリバリやっている人物なのだ。
このトラブルの中、こんなに頼りになる人物はいない。
それなのに、僕の心はすさみきっていた。
「そうそう。その土産を子供達に放り出せよ。子供が俺達を見捨てる前にさ!」

この時には、もう音が出ていないという事ははっきり分かっていた。
雨のために、スピーカーの接触が悪くなり、動かなくなってしまったのだ。
この時、最も苦境に立たされていたのは、音響担当の陛下のはずである。
しかし、彼は逃げずに機械を調整し続けていた。
その姿を見ている僕は、絶望のどん底にいた。
「さっさと中止にして帰ろう。飲んでうさを晴らそう。」
皆で愚痴を言ったり、なだめ合ったりしながら過ごす。
それが、これからの最良の一日の過ごし方に思えたのだ。
負け犬。それがあの時の僕にふさわしい役割だった。

必死になって調整を続ける陛下に七海さんがアイデアを出した。
「リハーサルで使ってたスピーカーは使えるんじゃない?」
迷わずに飛び出していく陛下。

気がつくと雨もあがっている。
明るくなる自分の心。それでもひっかかりはあった。
観客の子供達はどうなっているんだろう。
イス取りゲームはやっていないはずだ。
子供達は退屈しきっているだろう。
会場はもう、とっくに収拾のつかない状態になっているんじゃないだろうか?
ところが、ブルさんは機転を利かせてジャンケン大会をしており、会場は湧きに湧きかえっていたのだ。

それは奇跡のような光景だった。
しかし、この先も全てがうまく行くとは限らない。
まだスピーカーも動いていない。
しかも、後編にはブルバーストとお姉さんの長いセリフのやりとりがあるのだ。
悪役の声優担当の本郷さんとひそひそ話。
僕「あのシーン飛ばします?」
本郷さん「いや、レッドがやりたかった事だから、それはレッド次第だよ」
だったら、続けようと思った。
でも、それは前向きな気力でもなんでもなく、ただ他人の意見に従っただけだった。
司会のお姉さん、ブルさん、ブルさんを手伝いに行った七海さん、スピーカーを取りに走った陛下、
そんな人達の中にいて、自分はただイライラしながら立っているだけだった。

陛下がスピーカーを持ってきた!素早いセッティング!ちゃんと音が鳴る!
その間に、ジャンケン大会は大盛り上がりで終了した。
後半戦の始まりである。

5★ブルバーストショー後半戦

ジャンケン大会が終わってブルさんはステージから去った。
入れ替わりに、ブルバーストが登場する!

ジャンケン大会と、ヒーローが戻ってきた興奮に、ステージのすぐ近くに子供達が押し寄せた。
ブルバーストがステージ近くの子供達を押し止めるようなアクションをとっている。
遅ればせながら、僕もアドリブで声を張り上げる。
「危ないから下がって!また悪い奴らが来るかもしれない!」
アドリブで声を出せるのは自信が戻ってきている証拠だ。
僕は緊張しつつも、手応えを感じ初めていた。

ステージの脇では、ブルさんが子供達を整理している。
今回は雨のために、テントの中等、通常では観客が立ち入れない場所に子供達が沢山集まっていた。
ステージ脇は、役者の出入りが激しい場所だ。
そこに子供がいても、マスクで視界が狭くなっている役者は気づかない。
ぶつかって怪我人の出る危険性は極めて高かった、それなのに、誰も怪我をせずにすんだのは、ブルさんのおかげである。

そして、予言者のセリフが「スピーカーを通して」会場に響き渡る。
「暗黒ペタ将軍率いる一つの軍団がブルバーストに死の苦しみを与えるであろう。」
ここで、レッドさんがやりたかった、今回の最大の見せ場、長いセリフと芝居。
自分はカットしてしまおうと思っていた部分だ。
しかし、今はきちんと声が出る!やれる!

ブルバースト「俺はこのままじっとしているわけには行かない。
俺はじっとしているわけには行かないんだ。暗黒ペタ将軍の野望を打ち砕くため戦わなきゃならない。
正直言って戦うのは怖い…でも…僕は平和のために命を賭けなければならないんだ!
街は俺が命をかけて守ります。お姉さん、子供達のことをお願いします…」

お姉さん「待ってブルバースト、行かないで!あなたの強化服は傷ついている。今戦うことは死を意味するのよ!」

しばらく無言で見つめ合う、ブルバーストとお姉さん。
お姉さんの演技は最高だった。お姉さんの力量抜きにはこのシーンの成功は無かった。
自分もスタッフのくせして、僕は感涙しそうだった。
ベタな展開なのは分かっている。しかし、70年代に少年期をすごした、自分にはたまらないのだ。
しかし、現在の少年少女達の反応はどうだろうか?
しらけきってはいないだろうか?
僕の不安をよそに、観客はみんな真剣に舞台を見つめていた。
「キスしろー!」と野次を飛ばす声も聞こえたような気がするが、
それは芝居の意味をしっかり分かっていたという事である。
手応えあり!
成功だ。大成功だ!

そこに暗黒ペタ将軍と戦闘獣軍団が再登場。
しかし、ペタ将軍はマイクを持っていない。
前半、肉声で頑張っていたのだから、そんなものを持っていないのも当然だ。
ブルバースト役の僕は、将軍に挑みかかるように、アドリブのセリフを入れた。
「後ろのマイクを取れ!」
すぐに反応してマイクを取ってくれる大将軍。
いいぞ!さすがだ!ペタ君!
彼と一緒にショーができて本当に良かった。
たしかに、妙なやりとりだが、結果オーライだ。
僕の中にも興奮が戻ってきた。

ブルバーストと戦闘獣の戦いが始まった。
相手は強敵ぞろい。ブルバーストのパンチもキックも歯が立たない。
ブルバースト絶対絶命!
そこへ新ヒーローが颯爽と現われた!
真紅のヒーロー、ユウセイダーだ!

ユウセイダーは圧倒的な強さで敵を蹴散らす!
「どおりゃああああああ!!!!!」
ユウセイダー役の声優の氷屋さんも、のりにのっている。
氷屋さんの声はリハーサル時もカッコ良かったが、本番はケタ違いの迫力だ。

ブルバーストも強力な味方を得て、大反撃に転ずる。
奮い立ったブルバースト。奮い立った僕の心。
それは全く同じものに思えた。

ユウセイダーとブルバーストの2大ヒーローの必殺技を受けて、
最強の異次元戦闘獣バルゴは敗れた。
敵を倒し、ユウセイダーはステージから去った。

6★エンディング

立たたずむブルバーストに駆け寄ってくるお姉さん。
感謝の言葉を述べているはずなのだが、またしても何かが変だ。
気がつくとお姉さんのマイクから声が出ていない。また故障だ。
段取りではお姉さんがユウセイダーを呼ぶ事になっている。
でも、このままではユウセイダーは来ない。

いつも遅ればせなのだが、重要な事に気づく。
今、マイクから声を出せるのは僕だけなのだ。
僕は大声を張り上げた。

「それじゃあユウセイダーを呼ぼう!せーの!」
「ユウセイダー!」
子供達も大きな声で呼んでくれる!
ほんの少しの登場しただけなのに、ユウセイダーの名前を覚えてくれたんだね。みんな。

ユウセイダー再登場!
盛り上がる観客!

この後はお姉さんが、ヒーローに名乗りポーズを頼む事になっている。
だが、お姉さんのマイクは動かない。 僕しか話を進められないのだ。

迷う間もなく、僕は大きな声を張り上げた。
「それじゃあ2人でカッコ良く名乗りを決めようぜ!」

「紅の超新星 ユウセイダー見斬!!」
「街を守る青い正義 ブルバースト!!」

会場の子供達は大喜びだった。

7★エピローグ

今回のショーはアクシデントだらけだった。
スタッフは誰もが1度は投げやりな気分になったのではないかと思う。
少なくとも、もの凄い壁にぶち当たったような感覚は味わったはずである。
ところが、一人一人が勝負を捨てずに乗りきった。
ここに名前を書いていない人達。役者や裏方に徹してくれた人達も沢山いる。
もちろん、みんな大活躍をしてくれた、凄い方々だ。
今回のスタッフは誰もがキーパーソンだった。

今回のショーは上手くいったかどうかと言えば、ちっとも上手くいかなかった。
僕が経験した中では、最も不出来なショーだった。
しかし、悔いが残ったかと言えば、全くそんな事は無い。
僕が経験した中でも、最も満足感を味わったショーだったのである。

ショーを盛り上げてくれた仲間たち全員に言いたい。
そして、僕達を最後まで応援してくれた子供達に言いたい。

本当にありがとう!!!


2004/05/09 サク



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